【街景寸考】特別給付金のこと

 Date:2020年05月27日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 5月の連休明け、特別定額給付金(10万円給付金)の申請書類が自宅に郵送されてきた。新型コロナに伴う緊急経済対策として、二転三転したあげくに決定された事業だ。早速、必要箇所に記入し、ポストに投函してきた。呆気ないほど簡単だった。

 正直、この給付金のことでは、ボーナスをもらうときのような高揚感を久しぶりに覚えた。その勢いに乗って「振り込まれたら焼肉を食べに行こう!」と、つい声を弾ませてカミさんに言うと、「何ば言いよっとね」と冷たく一蹴されてしまった。コロナ禍だというのに不謹慎な言動だと言わんばかりの表情をしていた。

 申請書を投函して数日が経った頃から、オンライン申請のことでメディアが騒ぐのを目にするようになった。郵送申請よりは簡単な手続きで、給付も早いのだろうと思っていたオンライン申請が、実際はそうではなく却って自治体の窓口で混雑・混乱をきたすような事態になっているではないか。

 もっとも、IT音痴であるわたしには、日頃のこの劣等感を覆してくれる痛快な光景にも見え、腹の中で「ざまあみろ」と叫んでいた。同時に、中国や台湾、韓国に比べて、日本がこれほどIT分野に遅れた国であることを知り、複雑な気持ちにもなった。

 一方、この混雑した光景が不可解にも思えた。オンライン申請が長蛇の列に何時間も並ぶことになる手続きになるのなら、なぜ簡単な郵送申請に切り換えようとしないのか。自治体の職員も余計な混雑が避けられ大いに助かるではないか、と。もっとも、この光景が不可解に思えるのは、IT音痴であるわたしのような人間だけなのかもしれない。

 こんな大変な事態になっているというのに、最近まで政府広報はオンライン申請に重きをおくような告知を続けていた。今回のこの申請に便乗して、マイナンバーカードの普及を図ろうとする政府の魂胆が見え見えである。その目論見が外れたことにも、一国民として情けなく思う。

 この愚策のせいで、今も大変な犠牲を被っている自治体の職員が気の毒でならない。業を煮やした一部の自治体では、地元TV局を通してオンライン申請をしないよう、郵送申請だけをするよう市民に呼びかけるようになった。諸手を挙げて賛成である。

 それはともかく、新型コロナ感染の影響で困窮生活を強いられることになった人々にとって、この給付金は一刻ではあっても心が癒されるはずだ。それを思うと、正直わたしも嬉しくなる。「もう一度がんばってみよう」と思う人もいるかもしれない。わたしが極貧生活を続けていた学生時代、亡き母から予期せぬ仕送りが届いたときは、その有難さが身に染みていたことを思い出す。 

 話は変わるが、先日の麻生財務相の発言には腹が立った。この給付金が閣議決定された後に「今回は手を挙げていただいた方に給付する」と言いやがった。どうせ給付するのであれば、国民から素直に喜んでもらえる発言をすべきである。ほとほと無神経な政治家である。