【街景寸考】「ウグイスの鳴き声を聞いた!」のこと

 Date:2021年04月14日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 毎朝8時過ぎに目が覚める。一旦5時頃に起きて必ずトイレに行くので、その後3時間は二度寝をしていることになる。二度寝から覚めても、しばらく布団から離れない。浅い眠りを繰り返したり、グズグズとテレビを観ていたりしている。

 二度寝のときに見る夢が楽しみになっている。夜中に見る夢と違って、目覚めてからもしばらくは記憶に残ったままの場合が多い。夢の中のワンシーンだけが頭のどこかに張り付いたままの場合もある。更に不思議なのは、二度寝のときに見る夢は、現役時代の職場で立ち働いている場合が多い。

 その夢に現れる職場で、現役当時と変わらない心持ちで、冷や汗をかいたり、焦ったり、悔んだりしているのである。職場の建物内部は、実際の部分とどこかで見たことのある建物部分とが微妙に合成されている。夢の中にいるわたしは、それらの違いに気づきつつも、何ら戸惑うことなく平然と立ち働いている。

 話を戻す。二度寝で目が覚める頃、晴れた朝はスズメのさえずりがバルコニー辺りから聞こえてくる。サッシ越しに目を遣ること、大抵2匹のスズメがバルコニーの手すりに並んでせわしなく羽を広げたり、低く飛び跳ねたりしている様子が目に入ってくる。目覚めの余韻が残る中で、このさえずりを布団の中で聴きくのが楽しみになっている。

 先日、二度寝から目を覚まそうとしていたとき、思ってもいなかった鳥の声が聞こえてきた。3月の中頃だった。「ホーホケキョ・・、ホーホケキョ」という鳴き声だったのである。

 最初に聞いたときは少し耳を疑ったが、再び「ホーホケキョ」と間違いなく聞こえてきたのでウグイスであることを確信し、わたしは大人気なく胸を躍らせていた。

 今の自宅に住んでから30年になるが、居ながらにしてウグイスの声を聞いたのは今回が2度目のような気がした。1度目が何年前のことだったのか、とんと記憶にない。わたしは何かの手柄を立てたときのように勢い込んでカミさんに告げたら、テレビに顔を向けたまま「わたしは何度も聞いたわよ」とつれない返事が返ってきただけだった。

 わたしにとってのウグイスの鳴き声は、無形文化財のようなものであり、心のサプリメントでもある。布団から起き上がってガラス越しに周囲を見回してみたが、残念ながら目で探し出すことはできなかった。これまでも山間を歩いていたときにウグイスの声を何回か耳にしてきたが、なかなか目にすることはなかった。

 ウグイスを初めて見たのは5歳のときだ。竹ひごで作られた鳥かごに入っているウグイスだった。わたしを喜ばすために飼っていたのかは分からないが、祖父は普段は見せない柔和な表情で練り餌をウグイスに与えていた光景を憶えている。

 近年、齢のせいでもあるのか鳥たちのさえずりが心に沁み入るようになってきた。子どもの頃、毎夜聞こえていた野犬の遠吠えも、夏場のカエルの合唱も、早朝の雄鶏の甲高い鳴き声も、今耳にすれば同じように心に沁み入るのではないかと思う。

 エンジン音や電子音、家電音が溢れる中、わたしの心は相当に渇いているのかもしれない。