【街景寸考】 「なぜロシア人が撃ったの?」

 Date:2022年03月23日09時02分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 連日、ロシア軍のウクライナ侵攻に関する報道が続いている。大国としてあるべき範を示さなければならない立場のロシアが、ウクライナの国民を無差別に殺してまで侵攻を続けている事情が何であるのか、無知な私にはどうしても理解できない。

 それにしても、捕虜になったロシア兵の多くが「ここがウクライナだとは知らなかった。軍事訓練だと思っていた」「ネオナチを排除するために来たのに、ここ(ウクライナ)にはネオナチもファシストもいなかった」と狼狽しながら話していたのには驚かされた。

 軍事研究者がロシア兵の士気の低さやロシア軍の組織力や結束力の脆弱さを指摘しているが、戦うための明確な大義が前線の兵士たちに与えられていないのだから、当然と言えば当然である。今回の侵攻は独裁者プーチンの個人的な野望によるものであり、ロシア国民が望んでいることだとはとても思うことができない。

 ウクライナ側はどうか。ロシア軍の侵略から自国を守り抜くという大義があるので、当然士気は高くなる。侵攻して2日目に首都キエフを制圧するというプーチンの当初のシナリオが思いどおりに運ばなかったのは、この士気の差が影響しているように思える。

 おそらくプーチンは、コメディアンという異色の経歴を持つゼレンスキー大統領をみくびっていたに違いない。ところがそのゼレンスキーは、ロシア軍の脅威に晒されながら堂々とキエフに留まり、国民を鼓舞するメッセージを送り続けることのできる人物だった。

 プーチンの誤算はまだある。取り巻きが独裁者プーチンを怖がって、正確な情報を伝えられない状況になっているということだ。この状況が戦略的ミスにつながったと指摘する専門家は多い。おそらくプーチンは「裸の王様」状態なのだろう。

 ロシア軍のミサイルがウクライナの都市を次々に破壊していく映像を観て、思う。戦争というのは、人々の日常やそれまで積み重ねてきた生活を1日で奪い、人命はもちろん伝統や文化、芸術や教育など有形無形の財産を無に帰してしまう人間の最も愚かな所業なのだと。再度言いたい。戦争は愚かであり、無意味であり、悲惨である。そのことを十分に知りながら、なぜ大国ロシアは無差別攻撃をしてまで兄弟国だった隣国ウクライナを一方的に侵略しなければならないのか、理解できない。たとえどんな事情であろうと、断じて許されるべきことではないことは小さな子どもでも分かる。

 ロシア軍の銃撃で左腕を切断した9歳の少女のことが報じられていた。病院のベッドに横たわっているその少女が、「なぜロシア人がわたしを撃ったの?」「左腕が残っているかどうかを正直に言って下さい」と尋ね、返事に戸惑っている看護師の様子を見て悟ったのか、「ピンク色の花柄の義手をつけることはできますか」と言ったという。

「みんなが爆弾なんか作らないで、きれいな花火ばかり作っていたら、きっと戦争なんか起きなかったんだな」。裸の王様ならぬ、「裸の大将」山下清画伯の言葉である。

 一刻も早くウクライナ危機が終息することを願わずにはいられない。