【街景寸考】ウクライナ危機は自国の危機

 Date:2022年04月06日09時30分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 子ども同士が殴り合いのケンカをしているとき、そこに大人が通りかかれば「ケンカするな」と叱り、制止してやることができる。大人同士のケンカのときは、警察を呼ぶことで制止することができる。

 国家間の武力衝突の場合はどうか。戦争状態にある両当事国と友好的な関係性を持つ第三国や国連が仲裁に入ることが多い。この場合、仲裁がうまくいけば平和的状況に戻すことができるが、和平の条件が?み合わなければ紛争は続くことになる。

 国家間の武力衝突を制止するのに、国連が警察のような役割を負ってくれるとよいが、実際には無力に等しい。国際司法裁判所という国家間の紛争を解決するための機関はあるが、敗訴した国を判決に基づいて強制執行することはできないのが現実である。

 平和を侵犯したと認定し、経済的・軍事的制裁を加える権限を持つ安全保障理事会という国連機関はあるが、今回のウクライナ危機の場合、実質的に何の権限も行使することはできなかった。なぜなら安全保障理事会の常任理事国に拒否権が与えられており、当のロシアもその常任理事国の一つだからである。罪人を裁く場に、常任理事国としての罪人が拒否権を持っているからである。おかしな話である。

 今回のロシアの侵略によるウクライナでの残虐非道な行為に対して、平和維持を目的に作られた国連がいかに無力であるかを改めて国際社会に知らしめることになった。とは言え、世界の秩序を脅かす無法な国があれば見過ごすことができないのが道理である。

 だからEUやNAТОなどの有志国が結束して、経済制裁や後方からの軍事支援で対処する行動は心情的にも理解できる。日本も経済制裁に加わり、ウクライナ国民への人道支援に乗り出している。だが、ロシアはこうした日本に対し直ちに非友好国にしてきた。

 かつて安倍元総理は北方領土問題の解決に強い意欲を示し、ロシアへの経済協力を積極的に行ってきたが、これらの努力が無に帰したことになる。一時はお互いに「ウラジミール」「シンゾウ」と呼び合う仲のように見えたが、プーチンから上手く利用されてきただけのことだったとしか思えない。

 今回のウクライナ危機により、世界は大きな歴史的転換点に立たされることになった気がしてならない。自国の影響力拡大のためには他国を侵害しても已むなしとする中国やロシアなどの覇権主義国家と、自由と民主主義を不変的価値とする欧米や日本などの国々との不穏な分断が加速化して行くような不安を覚えるからだ。

 日本は覇権国家の中国やロシアとの国境問題を抱え、北朝鮮を加えると日本海側は核保有国から包囲された位置にある。こういう世界的にも稀有な状況を改めて思うに、ウクライナ危機は我が国の問題として、更には自分の問題として捉えざるを得なくなっている。

 現在、ロシアのような侵略国家を力で制裁できる新しい枠組みを求める声が国際社会で高まっているが、どう頭をひねっても実現不可能な課題に思えて仕方がない。