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【四字熟語の処世術】一日千秋
Date:2015年05月27日09時50分
Category:
文学・語学
SubCategory:
四字熟語の処世術
Area:
指定なし
Writer:
遠道重任
子供の頃、両親が好きで良く聴いていた歌に「岸壁の母」というのがあった。第二次世界大戦後、ソ連の抑留から解放された兵士が引き揚げ船で帰ってくるのを待つ母親の心情を綴った歌だ。端野いせさんという実在の人物をモデルに書かれた歌だそうだが、昭和29年、テイチクレコードから菊池章子さんの歌で発売されるや、100万枚を超える大ヒットとなった。昭和47年にはキングレコードから二葉百合子さんが歌う浪曲調の岸壁の母が発売され、250万枚の大ヒットを記録し、後、映画やドラマ化されて、いっそう人々の間に広まって行ったという。
一日千秋の思いで子の帰りを待つ母親の姿は、時代を超えて人々の心を掴んで離さない。誰もが母の思いに共感し、誰もが母の悲しみを共有する。実際に端野さんは、終戦後、東京都大森に居住しながら息子の生存と復員を信じて昭和25年(1950年)1月の引揚船初入港から以後6年間、ソ連ナホトカ港からの引揚船が入港する度に舞鶴の岸壁に立ち、息子の帰りを待っていたという。
「一日千秋」…「千秋」とは秋が千回周ることで千年を意味する。つまり、一日が千年にも思われるほど待ち遠しく長く感じることの譬えである。
京都に本願寺というお寺がある。本願とは弥陀の本願を言うのだろうが、弥陀すなわち霊魂の母とも言えるお方の本願とはいかなる願いなのだろうか。思うに仏教には輪廻の思想があり、肉体を離れた私たちの霊魂は三界という三層に分かれた世界、すなわち欲界、色界、無色界を止まる事なく巡り、真の仏の世界に戻れなくなってしまったと説いている。
つまり、私たちの霊魂はその母である弥陀の本を離れて輪廻の鎖につながれ、帰れなくなってしまっているという事なのだ。ならば母の本なる願いとは何か。それは、ただただ子がその霊魂を成長させ、霊魂の故郷とも言える仏の世界、すなわち、母なる弥陀の本に帰ってくること、その一事に帰するのではないだろうか。
人をして子の帰りを一日千秋の思いで待つ母の姿を知るならば、霊魂の親である弥陀の願いが如何に切たるものであるか…。凡庸なる私にはその全てを分かる由もないが、きっと一日万秋の思いで、子の帰りを待ちわびておられるであろうことは想像できる。