【四字熟語の処世術】「琴瑟相和」(きんしつそうわ)

 Date:2015年09月08日11時50分 
 Category:文学・語学 
 Area:指定なし 
 Writer:遠道重任


 友人と話をしていて思ったのだが、縁とは実に不思議な働きをなすものだ。彼が話してくれた娘さん夫妻の話はまさにその縁の不思議さを物語っている。

 聞けば、娘夫妻が結婚されて三年が経つそうだが、その出会いは実に不思議だったらしい。アメリカ人のご主人とは、4年前に日本と海外を結ぶインターネットのコミュニティサイトを介して知り合ったそうだ。二人ともこのサイトの会員ではあったが、たいして利用もしないからと、娘さんが退会しようと手続きを始めた時に、この不思議な運命の歯車は回りはじめたのだ。

 彼女がまさに退会ボタンを押そうとした時、後に旦那さんとなる彼の写真が画面に現れたのだという。その容姿に惹かれた彼女は、すぐさま彼のプロフィールサイトへジャンプ。なんとか彼に連絡を…と試みるのだが、有料会員しか直接に連絡ができない仕組みに阻まれてしまう。通常ならここで終わりとなるのだが、彼女は彼のeメールアドレスを推測し、メッセージを送付。一回目のトライはさすがに失敗したものの、なんと二度目には見事成功。驚くことに彼女のメールは彼の元に届いたのだ。

 サイトから送られて来るメールが嫌で、実は彼も退会をしようとしていたらしいのだが、そんな折、eメールで届いたメッセージ。見知らぬ人からのメールに、不安はあったが興味も湧き、開いてみたらそれが彼女からのものだったというわけだ。結局、そのメッセージの内容に心動かされた彼は、その後はスカイプなどを通して連絡を取り、交流を深めていくことになる。

 後に彼が語学を学ぶために日本に来ることが決まり、熊本県の玉名にホームステイすることになった時も、不思議な縁が二人をゴールに近づけた。なんと、来日直前、新型インフルエンザが日本で猛威を奮い、結局ホームステイ先から受け入れを拒否されてしまうという、とんでもないハプニングに見舞われてしまったのだ。

 会うのを楽しみにしていただけに、ショックが大きい二人だったが、「よそがダメなら我が家で…」と気持ちを切り替え、さっそく家族に嘆願。最初は当然に反対されるが、粘り勝ちをおさめ、ついに自宅がホームステイ先に決まったそうだ。そして、ついに彼が、私の友人宅へやってきたというのだ。

 彼が日本人の若者以上に日本人らしい性格だったこともあり、家族からも愛され、結局、1年後にはめでたく結婚。もうすぐ第一子も誕生するとか…。

 儒教の経典「詩経」に「琴瑟相和」(きんしつそうわ)という言葉がある。琴瑟はともに中国の楽器で、二つを合奏すると音が良く合うことから、夫婦がきわめて仲睦まじいことのたとえとされる。

 この秋から二人は日本で暮らし始めるそうだが、日本での生活が、幸せに満ちたものとなり、二人が琴瑟相和して、いつまでも仲睦まじい夫妻であることを私も願っている。

 旦那はアメリカ人なのに、もう娘の尻に敷かれている、と笑いながら語る友人だが、彼ももうすぐグランドファーザーである。