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【四字熟語の処世術】無病息災(むびょうそくさい)
Date:2016年02月26日13時42分
Category:
文学・語学
SubCategory:
四字熟語の処世術
Area:
指定なし
Writer:
遠道重任
モガリ笛 いく夜もがらせ 花ニ逢はん…小説家檀一雄の辞世の句である。今日、友人と博多湾に浮かぶ能古島にある石碑を見に行った。立春は過ぎたとはいえ、島に吹く潮風はまだまだ寒い。碑は彼が晩年をこの島で送り、こよなく愛したこの島の裏側の高台に設置されている。毎年5月には彼を偲ぶ花逢忌(かおうき)が催されている。
もがり笛とは冬に吹く冷たい風がヒューヒューとなる音のこと。寒い冬もいつかは終わり春が訪れることを詠ったものだと言われる。亡くなる前の病室で外を吹く寒風がヒューヒューとなるのを聞いて詠んだ句だと娘で女優の檀ふみさんが語っていた。
この句にある通り、まだ肌寒い日が続いているものの、三寒四温、日に日に寒さは和らいでおり、春を告げる桜の開花も近づいている。考えてみればもう直ぐ桃の節句を迎える。我が家にとっては初節句なのだ。
節句とは中国の暦法と日本の風土や農耕を行う生活の風習が合わさり、宮中行事となったものだとネットにある。季節の変わり目を1月7日の人日(じんじつ)、3月3日の上巳(じょうし)、5月5日の端午(たんご)、7月7日の七夕(しちせき)、9月9日の重陽(ちょうよう)の五つに分け、気の変化を節とし、無病息災、豊作、子孫繁栄などを願い、邪気を祓う行事を行ったのだという。
その3月3日の上巳が桃の節句である。孫の無病息災を祈って何かお祝いをと思うのだが、娘夫婦はさほどに重きを置いていない様子で、雛人形を飾ろうかと提案したが、いらないとの拙い返事。雛人形は飾らないとしても無病息災を祈る気持ちは誰よりも強い娘夫婦。ネットにあった「イチゴのケーキでお祝いするのもいいのでは…」との提案にはきっと賛成するに違いない。
無病息災…よく聞く言葉である。生老病死が常なるこの世にあって、無病とはそもそもあり得ない。無病に越したことはないが、健康に対して油断しやすいのもあまり病気しない人の常であることを思えば、決していいこととは言い難い。現に母も59歳になるまで元気で、病院に一度も入院したことがないのを誇りにしていたが、初めて受診した胃カメラで癌が見つかり、医者の宣告通り3ヶ月しかもたず、60歳になってすぐに帰天した。
それ以来、無病息災と聞くと、それよりも一病息災がいいのだと思うようになった。時には医者の世話になって検診の一つもしていた方がいい。満ちれば欠けるのは月だけではない。無病が慢心を呼び、油断を招いて大きな病を呼び込むからだ。病に限らず、慢心、油断は災いの元、心したいものである。
とはいえ、初孫には無病息災でいて欲しいと願っているのだが…。