【四字熟語の処世術】地平天成(ちへいてんせい)

 Date:2016年07月22日15時57分 
 Category:文学・語学 
 SubCategory:四字熟語の処世術 
 Area:指定なし 
 Writer:遠道重任


 世界のあちこちで頻発するテロが人々を恐怖に陥れている。昨年11月、同時多発テロで多くの犠牲者を出したフランスでまたテロが発生した。南フランスのニースで起こった今回のテロは、革命記念日を祝う花火大会の人波に大型のトラックが突っ込むという、これまでの銃や爆弾とは違った手口で80名を超える一般市民を殺害した。フランスに住む娘はパリで花火大会を見ていたといい、ゾッとさせられた。バングラディッシュのダッカでは外国人で非イスラム教徒を狙ったと思われるテロが起き、日本人7人を含む20人が犠牲となった。いずれもイスラム国が犯行声明を出した。

 トルコでは軍によるクーデターが起き、市民47人を含む194人が死亡した。アメリカでは繰り返される警察官による黒人射殺問題が警察官銃撃という報復に発展し多くの犠牲者が出た。おそらくニュースにならないだけで世界中至る所でこうした悲惨な事件が起きているのだろう。

 自然災害も後を絶たない。今や世界中で異常気象は常態化し、最近でもアメリカや欧州、中国をおそった大洪水は甚大な被害をもたらした。アメリカ東部のウェストバージニア州のそれは「千年に一度」と形容された。

 地平天成(ちへいてんせい)…世の中が平穏で天地が治まることと辞書にある。人が地にあって平穏な日々を実現してこそ、自然も穏やかに人々を癒やしてくれると言うことだろう。

 最近、天皇陛下の生前退位が話題となっている。陛下が即位されてもう28年だ。昭和天皇が崩御され、現在の天皇は即位されたが、昭和64年1月7日、当時の官房長官だった小渕さんがテレビの中継で新たな元号を「平成」と国民に告げた時の様子は今も覚えている。史記の「内平らにして外成る」、書経の「地平らにして天成る」が出典であるとも話していた。未曾有の人災をもたらした戦争の昭和を礎に、来る平成はただ「平和であって欲しい」との願いが込められているようだと、NHKのアナウンサーが語っていた。

 平成の28年間は戦争の影におびえることはあっても戦争をすることも巻き込まれる事もなく、日本は平和を維持して来た。ただ、多様化し複雑化する国際社会の中にあっては、戦争を放棄した日本であっても、その立ち位置は決して安全、安心とはいえない状況だ。

 地にあって人類が平和を築けない今、天にあって自然が穏やかな気の流れを人類に恵んでくれることは無いとも言える。地に足をつけ、天に頭を向け、天と地を繋ぐは人。天地の間に流れる気を人が正しく受け治世できてこそ、自然もまた穏やかとなって人々に恩恵を与えてくれるのだと古代中国の智者は教えている。

 これから先、時代がどんなに移り変わり、新たな元号が生まれたとしても「平成」の願いは人類永遠の願いだということを忘れてはならない。