めでたし、禁煙

 Date:2012年06月22日16時02分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
還暦を迎えた年にたばこを止めた。これまで数えきれないくらい禁煙宣言をしてきたが、今度ばかりは「本当」である。「これが最後の一本だ」と言いながら何本も吸ってきた。近年では、カミさんもこの「最後の一本」宣言を聞いても相手しなくなっていた。

 なかなか禁煙ができない自分のことを「根性がない」という友人もいれば、逆に「根性がある」という友人もいた。内心、「本気になれば止められる」という自信がどこかにあったが、結果的に止めることができなかったのだから、「根性がない」と評する友人の方が正しかった。

 「まあ、無理に止めることもないか」と開き直っていたころ、タイミングがよいというか悪いというか、「たばこを我慢すると、ストレスが昂じて胃癌になる」という雑誌の記事を書店の立ち読みで目にしてしまった。この記事を読んで、「大きな健康のためには喫煙もやむを得ないのだ」という理屈をしばらくの間、盾していた。

 ところが、突然に心筋梗塞を患った。担当医は「血圧も高くない、血糖値も正常です。原因はタバコしかありません」と断定し、「タバコは止めなさい」と命令口調で私に告げた。

 「はい」と、私は自分でも驚くくらい素直に返事ができた。

「人生は太く、短くがいい」とか、「タバコを止めるくらいなら死んだほうがいい」とか豪語したこともあったが、ただのハッタリでしかなかったことが、そのときの反応で証明されていた。

 禁煙して見えてきたことがある。それは、これまでタバコを吸わない人々に対して、どれだけ迷惑をかけてきたかということである。この紙面をお借りし、「ごめんなさい」と言いたい。

禁煙したおかげで、口臭が消え、空気やお茶が大変美味しく感じられるようになった。
どんどはれ。