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【街景寸考】歯の健康優良児の今
Date:2019年02月20日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
初めて虫歯ができたのは36歳のときだった。歯科医院に行ったのもそのときが初めてだった。それまでは歯が痛むという経験もなく、永久歯が生えそろってからは歯がグラグラするということもなかった。自分の歯は特別頑丈なんだと思っていたので、いかにも面倒くさそうな歯磨きをしたことはほとんどなかった。
小学6年生のときは、歯の健康優良児の候補としてクラスの代表に選ばれた。虫歯もなく歯並びも良かったからだ。ただし、そのときにわたしの歯を検査した歯科医から「歯が汚い。歯ぐらい磨かんか」と、きつく叱られたのを覚えている。勉強はできないわたしだったが、歯だけは自慢だった。歯でジュースやビールの瓶の蓋をポンポン開け、その様子を見て驚く大人たちを見るのが面白かった。
初めて行った歯科医院で、「歯は毎日磨くように」と言われ、磨き方まで教示してもらった。わたしは診療台の上でその言葉を神妙に聴き、今後は毎日歯を磨こうと決意していた。ところが、真面目に磨いたのは最初の1週間程度で、直に週2回ほどになった。
こういういい加減さが祟り、以後4、5年間隔で新たな虫歯ができ、鉛を被せた歯が7本にもなった。とはいえ、その7本はいずれも基礎部分はしっかりしたままなので、69歳にして入れ歯は1本もない。正確に言うと、つい最近まではそうだった。
ところが先日、自宅近くの歯科医院で上の前歯を1本抜くはめになった。歯周病が原因のようだった。医院長から「インプラントなら30万円はかかりますが、どうします」と訊かれたので、わたしは即座に「安い方法でお願いします」と返事をした。結局、ブリッジとかいう治療法で行うことになった。
それにしても、かつては歯の健康優良児のわたしが虫歯だけではなく、歯周病にまでなるとは夢にも思わなかった。歯周病というのは年寄りのかかる病気だと思っていた。そう思った直後、自分もその年寄りだったことに気づき愕然としてしまった。
歯周病のことはまるで無知だった。歯磨きは虫歯予防のためにするものだと思い込んでいた。今は歯周病で歯が抜けていく恐怖を覚えながら健気に歯を磨いている。更に、韓流時代劇で主人公の医女が「歯を強くするために百回噛んで下さい」と患者に忠告する場面を見てからは、そのことを思い出しては百回空噛みをするようになった。
歯磨きのことで素朴な疑問が2つある。歯科医は必ず「歯を磨いて下さい」とは言うが、その際「必ず歯磨き粉をつけて」と言うことはほとんどない。もしかして歯磨き粉はただの気休めでしかないのではないかという疑問である。もう一つは歯磨き粉のことである。今や歯磨き粉は粉状のものはなく、練状のものばかりだ。では、なぜ未だに「歯磨き粉」と呼んでいるのだろうか。どうでもよいことではあるが。