【街景寸考】なげかわしいこと

 Date:2019年05月29日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 「自由に生きる権利」は憲法で保障される基本的人権のひとつであり、この「自由権」のひとつに「精神の自由」があり、その中のひとつに「表現(言論等)の自由」がある。これら自由を享受し、権利を行使するには責任と義務が伴わなければならない。

 「言論の自由」の場合で言えば、その言論を他者との関係においてみだりに行使してはならない責任と義務がある。具体的には、言論によって他人の名誉を毀損したり、言葉の暴力により他人の心を傷つけたり、果ては自殺に追い込むというようなことがあってはならないということだ。

 「北方領土を戦争で取り返す」という主旨の問題発言をした衆議院議員・丸山穂高氏の場合はどうか。この問題発言により、元島民の人々は随分心を痛めたに違いない。更にはロシアとの北方領土の返還交渉に微妙に影響を及ぼすことも考えられ、国益を損なう可能性もないとは言えまい。明らかに、言論の自由の範囲を逸脱していると言っていい。

 この事態を重く見た野党6党派は、丸山議員に対する辞職勧告決議案を衆議院に提出したが、何と同議員は「自分が辞任に追いやられることがあれば言論の府の首を絞めかねない」と反論し、問題をすり替えたのである。この反論が第三者の声であるならまだしも、問題発言をした本人から発せられたことにわたしは驚きを隠せなかった。「そんな心配をアンタにだけはしてもらいたくない」と言い返してやりたかった。本来ならこの勧告決議案が提出される前に、すぐさま議員辞職すべきことだったのだ。

 この呆れた戦争発言が、酒を飲んでいる巷のオッサンの口から出たのならまだしも、誰よりも平和憲法を守っていかなければならない国会議員だったということが実に残念で嘆かわしい。つい最近も新幹線西九州ルート計画に関して「佐賀県は韓国か北朝鮮のようだ」とバカな発言をした自民党の国会議員がいた。自民党が議員向けに失言防止マニュアルを配布した直後の失言だった。なぜこうも道徳心に欠ける政治家が多いことか。

 「口は禍の元」という諺がある。「物を言うときは気をつけないと災難の元になる」という意味だ。こうした過ちは、年齢を重ねるうちに世間というものを知り、人間を知るにつれ、段々気をつけて物を言うことができるようになるものだ。誰もがそうなるものだと思っていたが、当世の政治家のお陰でそうならない人間がいることも知らされた。

 国会議員たちの失言が繰り返されるたびに、国民の民度までが内外に晒されているようで恥ずかしくなる。国会議員なぜこうもおごり高ぶり、自己中心的で思いやりに欠けるような人間が多いのか。こんな輩が永田町界隈にたくさん群れているのかと思うと、残念というよりおぞましくなる。

 昔、「最も偉大な政治家とは、最もヒューマンな政治家である」と言った哲学者がいた。