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【街景寸考】8050問題のこと
Date:2019年06月19日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
8050問題。自立できない50代の子どもの生活を、80代の親が支えるという問題のことだ。こうした世帯が増えてきたので、社会問題として扱われるようになってきた。50代と言えば、10代から20代の子どもを持ち、男性であれば家計を支える働き盛りの立場にあり、女性であれば子育てや家事を切り盛りする立場にある場合が多い。
そういう50代が、自立できずに親の家にひきこもっているという状態は、家族形態が多様化してきた昨今とは言え、特異な例であることには違いない。「ひきこもり」は50代だけではない。今や40代を含めた中高年の「ひきこもり」は、61万人を超えているようだ。もはや、単なる個々の家庭の問題として捉えることができない状況にあると言っていい。
これに若年層を加えると、100万人を超えているというから驚く。「ひきこもり」には内向的な性格や非社交的な性格の者が多く、そのきっかけは学校や職場での人間関係や離職就活の度重なる失敗などが多いという印象が強いが、これら以外の要因によって生じる事例も多々あるのが実態だ。
動物たちの巣立ちを再考してみた。キタキツネの例で言えば、生後6カ月ほどになると母キツネが子キツネを自分の縄張りから追い出しにかかる。他の野生動物の場合でも、これと似た例は多くある。その離反は、親子双方が生き残っていくための法則のようなものであり、種の保存本能と無関係ではないであろう。
人間の場合の巣立ちはどうか。自然の中で棲息する野生動物とは異なり、時代ごとの文化、文明や社会構造に適応しながら生きていくので、一概に巣立ちの年齢を決めつけることができない生き物だ。
原始共同体のような時代であれば、血縁を中心とする相互扶助の関係を優先するため、巣立ちはなく、大家族での暮らしが基本だったように思う。商工業が発達した近代では、10歳で小丁稚や子守りとなって巣立ち、商家に年季奉公するという形態を多く見ることができた。平成以降では、一般に高校、大学を卒業する18歳から22歳が巣立ちの年齢になってきた。もちろん、個々の家庭の事情により同居したままの世帯も少なくはない。
しかし人間社会の場合は、時代によって巣立ちの年齢が変化はしてきても、健康体の大人が働くこともできず、家の中に引きこもるという時代は一度もなかったはずだ。こうした「ひきこもり」は、現代社会の特に経済構造の病理からくる現象ではないかと推察する。こうした現象が、まさか混沌とした今の社会に順応するための一時的、過渡期的な現象であるとは、とても思うことはできない。
「ひきこもり」世帯は、個々の家庭に問題はあるにしても、一旦レールを踏み外すと極端に生きづらくなってしまう今の社会の方に大きな問題があるように思えてならない。