【街景寸考】夏の思い出のこと

 Date:2019年08月14日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 蝉が騒がしく鳴き、真っ青な空に真っ白な入道雲がムクムクと立ち昇った光景。この光景を見るたびに、夏休みを前に早くも興奮していた小学生の頃が蘇ってくる。その興奮の出処は、40日間も学校に行かなくてもよいという喜びであり、朝から晩まで自由に遊ぶことができるという開放感からのものだった。

 それにしても近年の夏は、異常なくらい暑い。36℃、37℃を超える日も珍しくない。何しろ沖縄より気温が高いのだから驚く。連日のように熱中症警報が発令される事態は、やはり異常だと言うしかない。わたしが小学生だった頃は、暑くてもせいぜい32℃くらいで、それもひと夏に4、5日程度のものだったと記憶している。

 暑くても夏休みは毎日のように戸外で遊んでいた。家の中にいても暑さの我慢比べをしているような状態だったので、何かをして遊びたいと思わなくても戸外に出た。今のようにエアコンはもちろん扇風機もなかった我が家では、涼むことができるのは商店から中元サービスでもらった団扇があるだけだった。ところが団扇は煽いでも気安め程度にしかならず、何よりも煽ぐという行為そのものが面倒だった。

 戸外は当然ながら家の中より暑かったが、遊びに夢中だったせいかそれほど暑いと感じた記憶はあまりない。よしんば暑さを感じても、日陰があるところを探して遊ぶようなことはしなかったはずである。祖母はわたしが戸外へ遊びに行く際、日射病を心配して「帽子をかぶっとこ!」と必ず言って口を尖らした。何事も聞き分けのないわたしだったが、この忠告だけは素直に聞き入れることができた。

 小学生の頃は、夏が来るたび銀行とパチンコ屋が一番金持ちなんだと思っていた。まだ一般家庭はもちろん、各商店にもクーラーが設置されていなかった時代に、銀行とパチンコ屋だけが建物内にクーラーを設置していたからだった(デパートにも設置されていたであろうが、行ったことがなかった)。特に銀行の場合は、建物に入った瞬間まるで灼熱の砂漠から氷の世界に来たときのような、思わず驚嘆したくなるほどの爽快感に包まれた。

 パチンコ屋の場合は、建物の外側に設置された太いパイプから、水が止めどもなく側溝に流れ落ちていた光景を忘れることができない。それは勿体ないほどきれいな水であり、水量だったからだ。銀行の場合は、こうした水冷式のような設備が見当たらなかったので、パチンコ屋のものとは同型ではなかったように思う。

 クーラーからエアコンの時代になって、今ようやく我が家の中もオアシスのようになった。熱帯夜が続く中、設定温度を28℃にするとそのうち寒くなって目が覚め、29℃にすると今度は暑くなって目が覚める。そしてとうとう、28℃にして窓を開け放すことで快適に夜を過ごすことに気づいた。この罰当たりなやり方に、自省の念がないではない。