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【街景寸考】お隣さんのこと
Date:2019年08月21日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
「ピンポーン」 インターフォンのチャイムが鳴る。カミさんが来訪者を確認するため、モニターを覗き込む。インターフォン越しの声だけでお隣の御亭主と分かる。いつものように実家の畑で収穫した野菜を差し入れてくれるのだろう。カミさんが明るい調子で返事をして、足取り軽く玄関に向かう。差し入れであることを確信したときの動きである。
この日は自家製の高菜漬けを頂戴した。いつも何かお返しをしなければと思うのだが、せいぜいカミさんの親戚筋で製茶した嬉野茶くらいである。お返しできないことを恐縮しながらお隣さんに言うと、「そんな心配はせんでんよか」と強い口調で言ってくれる。
「向こう三軒両隣」という言葉がある。日頃から親しく交流している近くの家という意味でもある。村落を形成する田舎では、相互扶助の文化や風土が残っているので、今でも近隣とのつながりは強いものがある。我が家がお隣さんと親しいつながりでいられるのは、田舎で育ってきたお隣さん夫婦の人情によるところが大きい。
同じ隣同士でも、都市部や郊外に開発された住宅街では、田舎流のつながりを築くのは難しい。むしろ、あいさつ程度の希薄な距離間を保とうとする場合が多い。よかれと思ってつながりを深めようとしても、何かのことで関係がひとたびこじれると、隣同士であるがゆえに抜き差しならない関係になってしまうことがあるからだ。
今、日本とお隣韓国とは抜き差しならない関係にある。戦後生まれで歴史認識も浅いわたしが両国の背負う事情を正しく理解しているわけではないが、報道で知る限りにおいては子ども同士の喧嘩にも見えてしまうことがある。歴史認識の違いが衝突の根底にあるようだが、隣国同士であるがゆえの対立感情も多分にあるように思う。
両国間のこれまでの長い歴史を振り返れば、朝鮮通信使の履歴からも窺うことができるように、友好関係だったときの方がはるかに長い。過去の問題を軽視するわけではないが、両国がお互い仲良く繁栄していくことが望ましいと思うならば、お互い未来志向で現在のあり方を考えていくしかない。
つい先日、反日デモをするソウル市民のプラカードが、「反日」から「NО安倍」に変っていた。「日本国民を敵視しているわけではない」というメッセージでもある。このプラカードを映像で見たとき、率直に安堵感を覚えることができた。文在寅政権もこうした世論の変化により、反日へのスタンスを徐々に変えざるを得なくなってきたように思える。
わたしたち日本人も、反韓感情を煽る日本のメディアに振り回されないよう、冷静さを保たなければならない。更には政府間の対立をよそに、今だからこそ民間サイドで文化・芸術、スポーツ、観光等での交流を進めていくときだ。何かにつけて、「そんな心配はせんでんよか」という近隣関係を築いていきたい。