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【街景寸考】久し振りの親子水入らず
Date:2019年09月25日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
先日、4人の子どもたちに食事処で古希の祝いをしてもらった。ありがたいことである。その席で子どもたちへの礼の言葉を探し、浮かんできたのが「感謝」の一語だった。古希を祝ってくれる気持ちへの感謝だけではなく、子どもたちがそれぞれに幸せな家庭を築いていてくれていることへの感謝でもあった。
感謝しながら、感謝されるほどの父親ではなかったことの後ろめたさがあった。わたしの場合、子どもの養育に関しては、ただ生活費を稼いできただけであり、子供の生活管理や健康管理等はすべてカミさん任せにしてきた夫であり、父親だった。カミさんの大変さを実感できたのは、孫たちを懸命に育てる子どもたちの姿を見るようになってからだ。
親子6人水入らずで食事をするのは久しぶりだったので、感慨深いものがあった。子どもたちが結婚してそれぞれに家庭を持ってからは、再び親子揃って食事をするような機会はないだろうと勝手に思い込んでいたからだ。そうした嬉しい気持ちもあり、わたしはどんな話題でも積極的に相槌を打った。最も盛り上がったのは、「もみあげバッサリ事件」だった。
次男が高校生の頃、カミさんに頭髪を切ってもらっていたときのこと、もみあげの位置を決めかねている様子をたまたま見たわたしは、「もみあげのことならお父さんに任せとけ」と言うなり、おやじ感覚で真横にスパッと切ったのである。あっという間の出来事に、なすすべもなく次男は放心状態に陥った。「子の心親知らず」を象徴する事件だった。
食事の後、長男の提案でカラオケ店に行くことになった。夜中の時間帯だっただけに、息子たちの帰りを待つ孫たちのことを思うと少し気が引けたが、久しぶりの親子水入らずの方を優先するのに迷いはなかった。
隣町にあるカラオケ店まで長女の運転で行くことになった。途中、一番年下の長女の運転ぶりを眺めながら、長女がまだ赤ちゃんだった頃のことを思い浮かべ、時のうつろいを感じていた。他のみんなもわたしと同じように思えた。
カラオケ店では、いつもはマイクを持とうとしないカミさんも長女と一緒に大きな声で歌っていた。長男は高校生の頃に歌っていたGLAYの「HОWEVER」の類を迫力ある声で歌い、次男はしっとり感のある徳永英明の「レイニーブルー」などの曲を、三男は最後の方で意外にもビートルズの「Let It Be」を選曲していた。本場の発音には程遠かったが、「Let It Be」を何度も繰り返すところを乗り越え、めげずに最後まで歌い切った。
カラオケ店を出たときは午前0時を回っていた。帰りの車中、みんなは長女の運転に身を委ねて静かだったが、この日の余韻をそれぞれに楽しんでいるように思えた。この日は長女の32回目の誕生日でもあった。