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【街景寸考】「がんばらんば!」
Date:2019年10月30日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
先日、小学5年生の孫娘が、地元の教育委員会主催の「美しい日本語暗唱・朗読大会」に出場するというので見に行ってきた。文章の朗読や暗唱をすることで、子どもたちに日本語の良さや美しさを知ってもらうのが開催の趣旨だ。孫娘は暗唱ペアの部に登場し、手振りや身振りを交えて、切れの良いかけ合いを演じていた。
確かに昨今の日本人の多くは、本来の日本語の良さや美しさを忘れかけているように思う。更には、下世話な造語や略語が蔓延り、日本語の秩序を乱しているように思うことがある。日本語が乱れることで、日本の風土に根差した文化や情緒も希薄になっていくようでならない。こうした中にあって、子どもたちに朗読や暗唱をさせる催しは大賛成である。
欲を言えば、こうした催しに地元の方言を交えた朗読等も盛り込んでほしかった。方言は、標準語とは異なる味わいや美しい響きを有している。更に、方言は地方の風土や歴史、文化の中で育まれてきたものであり、そこに暮らす人々の人間形成に深く影響を及ぼしてきた。
その方言が、東京風の言葉や文化の洪水に押し流されて行く状況は、想像しただけでも恐ろしい。そのことは方言だけに留まらず、地方で営々と築かれてきた有形無形の文化も一緒に流されてしまうことに、わたしたちは気付かなくてはならない。大阪人はどこに移り住もうと大阪人のままである。大阪人としての気風を持ち続ける頑固さやアイデンティティーを忘れることがないので、独自の風土や文化を失うようなことはない。
日本語のことを書いていたら、先日テレビ・ドキュメンタリー部門で大賞を受賞した「静かで、にぎやかな世界〜手話」という番組を思い出した。ろう(聴覚障がい)の子どもたちの豊かな世界に目を向けた作品だった。音のない世界であるにもかかわらず、想像をはるかに超えて、明るく生き生きと学校生活を送っている姿を見て、大変驚かされた。
言うまでもなく、ろう者間のコミュニケーション手段は手話である。その手話は一定の社会で使われる言語という意味では、方言と似た性質があるように思う。加えて、手話も方言も下世話な造語や略語などが頻繁に入り込んでくるような性質ではないようにも思える。
だからこそ、正確かつ信頼性の高いコミュニケーションが保たれているのではないのか。登場していた子どもたちが、いずれも賢く、素直で、思いやりのある性格に育っているのは、こうした背景によるものと思われる。
この番組を見て刺激を受けたわたしは、手話の素晴らしさと同時に方言の大切さをあらためて思うことができた。今後は孫娘たちと、もっと佐賀の方言と深く関わっていきたいと思う。「がんばらんば!」。