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【街景寸考】台風一過でのこと
Date:2019年11月13日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
先日、数年振りに強い台風が九州を通り抜けた。台風一過の朝、裏庭に設置している物置のそばに1枚のトタンが横たわっていた。隣家から風で飛ばされてきたのだろうと思っていたら、違っていた。隣のオヤジから「このトタン、あんたのとこの物置の屋根んごとあるよ」と知らされたのである。
脚立に上って物置の屋根を見て、驚いた。真中の部分のトタンが剥がれ、他の部分もかなり腐食していたのだ。物置に収納していた物も、すべてずぶ濡れの状態だった。わたしはこの状態を見ながら、業者に任せてすべて撤去してしまおうと考えていた。ところが、その場にいた隣のオヤジから「何か手伝おうか」と声をかけられたのである。
この言葉をかけられたわたしは、「業者に任せます」と言うことはできなかった。言えば、その好意を踏みにじることになるからだ。同時に、「何か手伝おうか」という言葉に対する反発心のようなものも湧き、思わず「いや、大丈夫です。今日のところは簡単に応急措置をしておきますので」と答えたのである。
この反発心の出処は、日曜大工の一切が不得手であるという、わたしのコンプレックスが震源になっていた。もっとも、この反発心だけで壊れた物置の応急措置をできるとは思わなかったが、隣のオヤジにそう答えた以上は、壊れた物置の前に進み出るしかなかった。
ところが、運が味方をしてくれたのである。用済みだったブルーシートがたまたま物置のそばにあり、被せたブルーシートを上から真一文字に縛れる長くて丈夫そうなロープもあるではないか。
わたしはそれらを使い、自分でも信じられないほどの段取りの良さで雨漏りを防ぐ作業を行ったのである。更に、用済みだった5枚の屋根瓦があったので、これを重石替わりにしてブルーシートの上に載せることで仕上げた。この間、約30分。
これまで釘一本打ったことのないわたしだが、このときの応急措置はまずまずの出来栄えだったように思う。その仕上がり具合に、隣のオヤジも少しばかり驚いた表情をしたように見えた。70歳になって一皮むけた気分になった。苦手なことに敢然と立ち向かい、運もあったがそれなりの成果を示せたことが嬉しかった。
ところが、その嬉しさを味わいながらも、一時は業者に金を払って物置ごとに撤去しようと考えた自分が恥ずかしくもあった。なぜなら、金を払って何でも用を足すような昨今の日本人の傾向を憂える一人だと自分のことを思っていたからだ。この主張が口先だけでしかなかったという、恥ずかしさだった。
ところで、このときの成果をカミさんに報告したところ、案の定、期待したほどの労いの言葉を貰うことはできなかった。