【街景寸考】ミカン狩りのこと

 Date:2019年12月18日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 11月の日曜日、わたしたち夫婦は子どもたち家族を誘って2台の車に分乗して太良町(佐賀県)へ行き、ミカン狩りを楽しんできた。太良町は三男の嫁の実家があり、70歳を超える両親が野菜づくりやミカン園をしながら元気に暮らしているところである。その御両親から毎年この時期になると、ミカン狩りに来るよう誘いをいただいている。

 そのミカン園は、鹿島市から太良町に至る広域農道オレンジ海道の途中から脇に逸れ、細い農道を上った山の中腹辺りにある。天気の良い日には、オレンジ海道から有明海や遠くに聳える雲仙普賢岳を望むことができるが、この日はあいにく霞のようなものがかかっていたので、その期待は叶わなかった。

 ミカン園に到着すると、嫁の母親C子さんが笑顔でわたしたちを出迎えてくれた。C子さんは農業団体の職員を定年まで勤め上げた人らしく、社交性に富み、如才なく振る舞う姿に好感が持てた。嫁の父親Dさんは長年地元で獣医師を生業にしてきた人で、そうした先入観からか知性を感じさせ、いかにも動物からも慕われそうな優しい風貌をしている。

 あいさつを済ませた後、わたしたちは早速C子さんの案内でミカン農園に向かった。その道すがら6人の孫娘たちは、まるでハイキングにでも来ているかのようにはしゃぎ回っていた。わたしはC子さんに用意してもらった収穫用のハサミやバケツを手にし、気持ちのギアを切り替えて目の前にあるミカンの木に挑んだ。
 
 摘み取り始めたわたしの傍に長男の嫁が、何やらそっと注意をしに来た。ミカンを摘み取ったとき、他のミカンに傷がつかないようにヘタのところの茎を極力短く切り取ったほうがよいという注意だった。そのことを初めて知ったわたしは、一度摘み取ったミカンを再び手元で茎を深く切り直すという作業を繰り返した。

 ミカンの木は低いので、上の方にあるミカンもちょっとした踏み台があれば摘み取ることができそうだが、これが意外に難しい。四方八方の硬くてしなりのない枝がじゃまをして、手の届きそうなミカンでも簡単に摘み取ることができない。強引に摘み取ろうとすれば、硬い枝が顔面にあたり、あたると相当痛い。最悪の場合、目を傷つけるリスクもある。

 2時間半ほどで、無事に13個のダンボール箱を満杯にすることができた。その間も孫娘たちは周囲を駆け回ったり、地べたに腰を下ろしてミカンの皮をむいて食べたりしていた。ミカンを摘み終えた後も、孫娘たちはDさんに促されるままに土と格闘しながらサツマイモを掘ったり大根を引き抜いたりし、面白くて仕方がないという歓声を上げていた。

 日没前、興奮冷めやらぬ孫娘たちを車中に押し込み、ミカン園を後にした。わたしたちは黄色いミカンに彩られた太良岳の中腹を見渡しながら、その名に相応しいオレンジ海道を再び通って帰路に就いた。