【街景寸考】ただいま省エネ越冬中

 Date:2020年02月05日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 以前、福岡市内でタクシーに乗ったとき、運転手から面白い話を聞かされたことがあった。数か月前まで札幌で暮らしていたというその運転手は、「福岡の冬がこんなに寒いところだとは思いませんでした」と言ったのである。

 札幌の冬は零下10℃以下になることもある寒冷地だ。どう考えても福岡が北海道より寒いはずがない。この話をどう受け止めてよいのか分からなかったが、よく聞いてみたら寒いのは外気のことではなく、室内のことだったのだ。しかし、たとえ室温のことだったとしても、暖房を効かしている状態なら福岡も北海道もさほど違いがないのではないかと、そのときは思っていた。

 ところが、その後仕事で札幌に行ったときに、その疑問が解けた。

 千歳空港駅から札幌行き普通電車に乗ったときに、車内の温度が福岡の電車内とは大きく違っていたのである。客席は十分に暖房が効いており、コートを思わず脱いでしまうほどだった。福岡の通勤電車はどうか。1両ごとに両開きの乗降口が三か所もあり、駅に着くたびに開け放たれるので、満足に暖房を味わったりすることはできない。

 この車内の温度の違いと同じように、北海道と九州では建物の構造や室内の暖房事情に大きな違いがあるということが理解できた。その後知ったことだが、北海道の冬場の室温は日本一高いらしい。

 現在、わたしが住む町は周辺地域に比べて幾分寒い。この町に引っ越してきた頃、勧誘に来た新聞販売店の従業員が「ここは雪が多く、水道代が高いんですよ」と言っていた。暮らして30年ほどになるが、確かに冬場は雪の降る日が周辺の町よりは多い。

 こういう気候条件の中での我が家の暖房事情と言えば、居間に敷いた3畳分の大きさのホットカーペットだけである。夫婦揃って5枚も6枚も重ね着をし、その上にジャンパーを着込み、寒がりのわたしはジャンパーの上にドテラを更に着込んでいる。首にはマフラーも巻いている。室内であるにもかかわらず、和製エスキモーの恰好である。

 自分の寒さ対策のことでは、もう一つ課題があった。就寝時の冷たい足先のことである。ホームセンターで湯たんぽを買えば済むことだが、抵抗感があった。湯たんぽを使っていることが近所のオヤジ連中に知れると、「本当のジジイになったな」と、はやされるのが目に見えていたからだ。

 逡巡しているとき、カミさんから分厚くて大きな靴下を買うのを勧められた。買ってみたら、これが実に暖かく穿き心地が良かった。この靴下を穿いたまま寝てみると、湯たんぽと比べても何の遜色もないように思えた。こんな代物があることを知っていたら、もっと早く買っていたのにと悔やんだくらいだ。後日、2足分買い足した。

 我ながら、省エネの見本のような越冬を実践中である。