nasiweb
nasiwebとは
注目記事
新着記事
ライター登録申込
同カテゴリの他記事
【街景寸考】教育関係者が自覚すべきこと
2024年08月05日11時14分
【街景寸考】怒りのCМ退治
2024年07月08日11時43分
【街景寸考】「ミャクミャク」のこと
2024年06月03日12時59分
【街景寸考】「人生、まあまあでいい」
2024年05月07日14時52分
【街景寸考】81歳と77歳が再対決?
2024年03月05日13時40分
同ライターの他記事
【街景寸考】教育関係者が自覚すべきこと
2024年08月05日11時14分
【街景寸考】怒りのCМ退治
2024年07月08日11時43分
【街景寸考】「ミャクミャク」のこと
2024年06月03日12時59分
【街景寸考】「人生、まあまあでいい」
2024年05月07日14時52分
【街景寸考】81歳と77歳が再対決?
2024年03月05日13時40分
【街景寸考】「ティールーム」のこと
Date:2020年03月18日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
あなたを待てば雨が降る 濡れて来ぬかと気にかかる
ああ ビルのほとりのティールーム
雨もいとしや唄ってる 甘いブルース
あなたとわたしの合言葉 「有楽町で逢いましょう」
昭和32年に発表された歌謡曲「有楽町で逢いましょう」の歌詞の一部である。歌手はフランク永井。小学3年生だったわたしは、当時最も流行っていたこの歌を学校の帰り道によく歌っていた。「有楽町で逢いましょう」という曲名から、若い男女がデートの約束をするときの合言葉であるらしいことは、子どものわたしにも想像できた。
東京の有楽町がどんなところかは知る由もなかったが、歌詞に出てくる「ビルのほとり」や「ティールーム」、2番目の歌詞にある「小窓にけむるデパート」や「ロードショー」という言葉を連想しながら、邦画で観たことのある東京のビル街を思い浮かべて歌っていた。
歌いながら、この歌詞の中に意味の分からない言葉があった。恋人が雨に濡れて来るのではないかと心配しながら待っている「ティールーム」という横文字のことである。小学3年生のわたしでも「ルーム」の意味は分かったが、「ティ」が分からなかった。
数年後、地方の街にも喫茶店と名のつく店舗を目にするようになり、それが「ティールーム」と同じものであることは直ぐに理解できた。同時に、そこがそれまで想像していたとおり、若い男女がコーヒーを飲みながら語り合う場であることもあらためて知った。
昭和10年代の歌謡曲にも「ティールーム」という言葉が使われている。例えば、花の東京で恋を夢見る若者たちのことを歌った「東京ラプソディ」(歌・藤山一郎)もそうだ。「一杯のコーヒーから」(歌・霧島昇)という歌も、「ティールーム」で芽生えてくる恋を歌ったものだ。当時の東京の「ティールーム」が、いかに若い男女の語らいの場として注目されていたかが、これらの歌から窺うことができる。
ところが、東京の大学に通うようになって初めて入った喫茶店は、それまで抱いていたイメージとは違っていた。大学の裏門近くにあったその喫茶店は、男子学生らが大勢ボックス席にたむろし、日米安保条約がどうの、マルクス経済がどうの、吉本隆明がどうのと店内のあちこちから甲高い声が飛び交うところだった。わたしは、そこがまるで議論をするための場所でもあるかのように思った記憶がある。
今、コーヒーチェーン店を展開する店舗では、ネットを扱ったり、書き物をしたり、雑誌などに目を通したりする一人客が目に付く。かつて若者たちが議論をしたり語り合ったりする光景はほとんど見かけない。時代の変化により生じた情景とは言え、わたしのような昭和の人間には、物足りなさを覚える。口角泡を飛ばしていた純な時代の喫茶店が懐かしい。