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Date:2020年04月29日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
そのお二人を運動公園で初めて見たのは、4年前だった。60歳を過ぎている思われる男性が、高齢女性の身体を正面から両手で支えるようにして「いち、にっ、いち、にっ」と、後退りしながら運動公園の外周を進んでいた。
高齢の女性は明らかに両足が不自由な様子に見て取れたので、男性の介助でリハビリを行っているのだということが直ぐに理解できた。同時に、お二人の懸命にリハビリに挑んでいる姿に、わたしは強く心を打たれたのである。
最初、わたしはお二人がてっきりご夫婦だと思っていたが、実は母と息子であることを後で知ったのである。このことを知ったわたしは、間もなく自らも高齢の域に入ろうかと思われる男性の、母親のリハビリにかける強い執念や深い愛情を思い、二度心を打たれた。
以降、わたしはお二人を見かけるたびに「こんにちは、がんばってください!」と必ず称賛と激励の言葉をかけてきた。母親の足元に目を遣りながら歩を進める男性は、わざわざ顔を上げて「ありがとうございます」と言ってから頭を下げ、満面の笑みを返してきた。母親も続いて、絞り出すような声を出しながら感謝の意を伝えてきた。
お二人の頑張りようは、すでに運動公園でジョギングやウォーキングをする人たちから知られているらしく、その誰もが必ずお二人に優しい励ましの声をかける光景を見てきた。こうした光景を見ながら、お二人の二人三脚によるリハビリが、わたしが知る何年も前から続いているらしいことを容易に想像することができた。
ある冬の日の夕方、地元TV局のニュースを何気なく見ていたら、このお二人が画面に映っていた。在宅介護で奮闘する家族のことを取り上げた報道のようだった。考えてみれば、仕事をする傍ら毎日のように母親のリハビリの介助を続ける孝行息子のことを、地元TV局が見逃すはずはなかった。わたしは驚きながら画面を食い入るように観た。
このニュース報道を観たことで、男性が「Hさん」という名前であることや、Hさんが自動車販売の経営をしていること、更には2人のご子息がHさんの両腕となって働いているということを知った。驚いたのは、他にもご息女が2人いて、そのどちらもが病院の勤務医として働いているということだった。
このようなHさんの家族のかたちを知ったことで、Hさんが稀有な孝行息子としてだけではなく、夫としても父親としても稀有な人物であることを知り、わたしはあらためてHさんに敬意を払わずにはいられなかった。
お二人のリハビリは確実に成果を上げていた。4年前とは違い、母親の両足の運びは自立歩行ができるのではないかと思えるくらい滑らかに見えた。そのことをHさんに言うと、「いやぁ、まだまだなんですよ」と答えたが、その表情は明るかった。
この小欄を借りてHさんとHさんの家族に「あっぱれ!」を言いたい。