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【街景寸考】「孫娘が発熱」のこと
Date:2020年06月17日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
先日の夜、三男から電話があった。電話に出たカミさんの話によると、4歳の次女が発熱しているので、翌日も熱が続くようなら午前中だけ預かってほしいという内容だった。仕事の都合で午前中は休暇が取れないため、午後から病院に連れて行くという段取りのようだった。共稼ぎなので、こうした事態にはジジ・ババがこれまでも孫娘を預かってきた。
今回も預かるのに迷いはなかったものの、何せ世間は新型コロナ禍である。カミさんも三男の要件を聴きながら、孫娘の発熱が新型コロナかもしれないと思っても不思議ではなかった。ところが三男は、自分の次女が風邪くらいにしか思っていないようで、コロナのことは全く意に介しているふうではなかった。
わたしたちは三男のこのノー天気ぶりに呆気に取られるやら、驚かされるやらで、一時は物が言えない状態に陥った。通常の感覚であれば、次女の発熱は新型コロナによるものかもしれない、そうだとしたらジジ・ババに移すことになるかもしれないと心配するものだ。あるいは、逆にジジ・ババから移されるかもしれないという心配をしてもよいはずだ。
三男のこの無神経ぶりは、わたしたちの躾や教えが緩かったせいである。長男、次男に比べて特に三男に対しての教育は緩かったように思う。その影響で伸び伸びと育ってくれたのは良かったが、どこかの神経が伸びすぎてしまったようなのだ。三男の仕事ぶりや人間性については世間からそれなりに評価されていることを漏れ聞くが、家族の間ではそうした評価を真に受けている者は誰もいない。
ともあれ、たとえ孫娘が新型コロナに罹り、ジジ・ババに移すことになっても仕方がないのである。そう思えるほど孫娘は愛しいものであり、その愛しさは感染リスクへの不安を遥かに超えている。
急きょ孫娘を迎えることになったわたしたちは、次第に神経が高ぶってきた。おやつの在庫だけでなく、何らかの感染対策を講じておかなければならないという気持ちに駆られてきたからだ。マスクや消毒液、使い捨て手袋のこと以外考えが及ばないでいたら、カミさんが「フェイスシールドを作ろうか」と言い出した。
フェイスシールドなら材料さえ揃えば、不器用なわたしでも作れそうに思えた。カミさんはA4版のクリアファイルや紐、輪ゴム、ハサミなどを早速持ち出してきて、忽ち10分ほどで作り上げた。デコの辺りに節分用の鬼の面も付けていた。わたしも作ってみた。一応飛沫だけは防げる仕立てにはなった。シールドにアンパンマンも描いた。
カミさんに酷評されるかと思ったら、「あらっ、いいじゃない」という言葉が返ってきたのが意外だった。図画工作で及第点をもらったのは、これが生まれて初めてだった。
翌朝、想定していた時間を大幅に過ぎても、孫娘を乗せた車は現れなかった。思い余って三男に電話をしたら、「あぁ、朝熱が冷めとったので幼稚園に連れて行った」。返事はそれだけだった。どこまでも「三男」だった。