【街景寸考】映画「ジョーズ」とGОТО

 Date:2020年12月09日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 菅総理肝煎りのGОТОキャンペーン(以下「GОТО」)のТV報道を観ていたら、突如「同じじゃないか」という言葉がわたしの中で走った。スティーブン・スピルバーグ監督の映画「ジョーズ」の筋立てとGОТОの成り行きが同じように思ったのだ。

 「ジョーズ」の筋立てはこうだ。観光客で賑わう地方都市の浜辺に、鮫に襲われたと思われる女性の遺体が打ち上げられる。主人公役の警察署長は海岸を閉鎖するよう市長に申し出るが、観光収入がなくなることを理由に激しく反対される。

 その後再び、海で遊んでいた少年が鮫の犠牲になるが、それでも市長は態度を変えようとはしなかった。遊泳禁止の決断をしたのは、観光客で賑わう海開きのその日に、女性が巨大なホオジロザメに食い殺されるのを目の当りにしたからだった。

 今、この市長と同じように日本政府も新型コロナの拡大を抑え込むことよりも、GОТОで経済を喚起する方を優先し続けている。そもそもGОТОは、新型コロナが収束した後に実施するという事業だったはずだ。ところが政府は感染収束を待つことができず、第2波の感染拡大の兆候が見える時期に前倒しをしてスタートさせたのである。

 そして第3波が急拡大している現在も、大阪市や札幌市をGОТОから一時除外し、東京も一部の対象者に自粛要請をするようにしたが、他の都道府県で感染地域が多発している状況にありながら一旦中止をするという考えは政府には残念ながらないようだ。

 多額の税金を使って割安の観光旅行や買い物、外食をするよう国民に煽りながら、一方でマスク着用を促し、不要不急の外出や3蜜を自粛するよう呼びかけるという「ご乱心」の政府に対し、多くの国民は戸惑い、閉口しているに違いない。「アクセルとブレーキを上手く調整しながら・・」と政府は言うが、都合のよい言い訳にしか聞こえない。

 今、政府が最も目を注ぎ、対策を急がなくてはならないのは、感染リスクを負いながら新型コロナと過酷な闘いを続けている医療関係者だ。その医療関係者が今、うつ病や過労で退職するケースが増え、医療崩壊寸前にあるという病院も報道されるようになってきた。こういう状況にあることを知りながら、とてもGОТОなんかを利用する気にはなれない。

 医療関係者の立場は、巨大なホオジロザメと命がけで闘う警察署長の場合と同じである。映ジョーズ」のようなエンディングを迎えるためには、医療関係者の健康と生活、更には病院経営の支援をまず急がなければならない。同時にGОТОを一旦停止すべきである。それが国民の命を守るためであり、経済再生のためでもある。

 先日、NHKの番組で新型コロナ対策分科会の尾身会長が、「GОТОの見直しを含めた人の移動の抑制策が必須である」と強調していた。政府はGОТОが感染拡大に影響を与えているという「エビデンスはない」と否定するが、逆に影響を与えていないというエビデンスもない。他人事にせず、政府自ら調査分析するべきではないか。

 今日(12月7日)、東大の研究チームが、「GОТОを利用した者は利用していない者より2倍の感染を疑わせる症状を経験している」という調査結果を公表していた。