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【街景寸考】「無節操なメディア」のこと
Date:2021年03月03日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
前々回の本欄では女性蔑視発言をした森氏のことを「感度の悪いオヤジ」と書いたが、今回はこれを報じてきたメディアの悪口を書くことにした。この蔑視発言に端を発した一連の報道のあり方に違和感を持っていたからだ。
ここで言うわたしの違和感とは、大半のメディアが森氏個人を吊し上げて面白おかしく報じることに重きをおき、いまだ日本社会に残る男女格差の問題を真正面から捉えようとする姿勢が見当たらなかったことに対してである。できればこの機会を捉えて、男女格差の実態をできうる限り取り上げ、国内外に報じて欲しいと思っていたくらいだ。
森氏が五輪組織委員会の会長職になった7年前、メディアはその資格や人選方法のことなどに何の関心も持ってはいなかった。ところが今回は、たまたまの蔑視発言を機に会長職の重要性を取り上げ、後任人事のことに至っては「密室人事ではないか、透明性が必要だ」などと騒いだ。森氏が会長職になった当時の無関心さを思うと、呆れるしかない。
呆れたことは他にもある。新型コロナ禍で五輪開催が危ぶまれる最中にあっても、メディアは昨年末までほとんど開催の是非について報道をせずにいた(どこに対してそこまで忖度していたのかは想像つく)。そして年が明けると忖度も限界だと言わんばかりに、一転して五輪開催の是非のことで騒ぎ立てるようになった。開催か、中止か、延期かと。
ところが、そこに森氏の女性蔑視発言が突如降りかかった格好になり、海外からの批判も加わったので再びメディアの矛先は一変した。そしてハイエナのごとく卑しく牙を剥き、この話題に飛びついた。その後は辞任会見、逆切れ発言、後任人事へと順次関心の矛先を変え、肝心な五輪の開催問題を忘れたかのように見えなくもなかった。
森氏の「(あんたらは)面白おかしくしたいから聞いてんだろう」と言い放った逆切れ発言のことで、一言言っておきたい。森氏が言い放ったこの言葉は、記者の内心を的確に言い当てたものだとして、わたしは同調することができた。
もちろん森氏を擁護する気持ちは毛頭ない。ないが、この発言を面白おかしく騒ぎ立てるメディアの傲慢さにも、わたしは憎しみに近い感情を覚えた。無責任かつ悪意に満ちた報道が疎ましく思えた。メディアは後任の会長となった橋本聖子氏のセクハラ行為を蒸し返して騒ぎ、今やっと開催是非の問題に目を向け始めた。
メディアが国民に知らせるべき肝心なことは他にもある。それは五輪誘致の当初に掲げていた「復興五輪」の象徴をどういう「かたち」にするのか、「コンパクト五輪」の予算がなぜ当初の7300億円から3兆円超にも膨れ上がったのか、ということである。
まだある。新型コロナ禍により医療体制が切迫している中で、五輪に必要な医療スタッフ1万人の確保は可能なのか、選手村でクラスターが発生した場合にどう対処するのか、何よりも五輪を開催するにはどういう科学的、合理的な条件が必要になるのかを知りたい。
再度言っておく。社会に大きな影響を与える力を知りながら、未だに視聴率至上主義への方向性を変えようとしないメディアの無節操さに呆れるしかない。確信犯そのものである。