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【街景寸考】性に合わなかったゴルフ
Date:2021年05月05日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
先ごろプロゴルファーの松山英樹氏がマスターズ・トーナメントで優勝したということで、1週間ほどそのニュースで持ち切りだった。スポーツ番組やワイドショーだけでなく、通常のニュースや報道番組までが取り扱っていた。
世界から選りすぐりのプロゴルファーが参加した大会で優勝し、アジア人としては初めてということなので、一大快挙であることはわたしにも理解できた。しかし、ゴルフ経験のないわたしは、正直メディアの仰々しい扱い方に些か違和感を覚えながら見ていた。
現役のサラリーマンだった頃のわたしは、仕事関係の人たちからゴルフに誘われることが何度もあったが、いつも断ってきた。「何でゴルフをしないんですか」と不思議そうに訊かれることもあったが、「今は野球とソフトボールに打ち込んでいますので」と言ったり、ときには冗談まじりに「分不相応なので」と言ったりして体良く逃れていた。
以前、小欄にも書いたが、わたしがゴルフをやらないのは、スポーツとしてのゴルフが何の面白味のない単調な競技のようにしか思えなかったからだ。加えて、芝生が敷かれた緑の広々した空間を少人数で独占し、金持ち連中が優雅にゴルフボールを飛ばしたり、転がしたりしているだけの光景に強い抵抗感があったからだ。学生時代からの抵抗感だった。
このときのわたしの感情の根っこには、多分に旧産炭地から身一つで上京してきた貧乏学生の妬みがあったのは確かだ。この妬みは、貧乏ゆえにゴルフができない悔しさというよりも、単にゴルフを楽しむ金持ち連中に対する妬みだった。
ところが、齢を重ねるにつれてわたしのゴルフへの偏見は段々薄れてきた。贅沢な空間を少人数が独占して行うスポーツであることへの抵抗感は幾分残っているものの、ゴルフが必ずしも金持ちだけの遊びではないことや、ゴルフも他のスポーツと同様に体力や精神力、発達した運動神経や高度な技術が必要であるということも分かってきたからだ。
しかし、ゴルフへの偏見が薄れてきても、試しに一度くらいやってみようという気持ちになることはなかった。むしろ、それまでの偏見を抜きにしても、ゴルフというスポーツそのものに関心を持てない自分を再確認できたくらいである。
要するに、わたしはゴルフが性に合わないのである。性に合わないといえばロッククライミングのような危険な登山も合わないと思ってきた。だから、松山氏がマスターズで優勝しても、世界最高峰クラスの山に日本人が登頂したというニュースが報じられても、それほど心が動くようなことがなかったのはそのせいである。
最近、隣家のオヤジからグランドゴルフの誘いを受けた。グランドゴルフであれば、野球場と変わらない広さで行う庶民的なスポーツなので抵抗感はない。ただし、古希を過ぎたとはいえ、まだ現役で野球やソフトボールをしている身であり、気安くこの誘いに乗るわけにはいかなかった。ジジイの仲間へと、両足を突っ込んでしまうような恐怖もあった。