【街景寸考】リーダーの資質を問う

 Date:2021年08月04日12時28分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 この国の首相が会見している映像を見るたびに、腹が立ったり、情けなくなったりする。
記者が突っ込んだ質問しても、ほとんど正面から答えることはなく、いつもはぐらかした言
葉ばかりを返してくる。

 例えば、新型コロナの新規感染者が過去最多になったときの記者会見でも、「オリンピッ
クを中止する選択肢はあるか」という質問に対し、「人流も減っていますし、そこはありま
せん」という言葉が返ってくる。このときは、はぐらかしただけでなく、感染拡大している
というのに何の科学的根拠もなく「減っています」と平気な顔をして強弁していた。自分の
都合の良い情報をどこかから切り取って言い放っただけである。

 質問をはぐらかしてくるのは、自分にとって都合の悪い質問だからであり、あるいは自
分の失政を煙に巻こうという魂胆があるからだ。それらの言葉から見えるのは、首相としての自分の身を守ることだけを優先しようとする意識である。

 質問をはぐらかすので、記者の質問と首相から返ってくる言葉とが噛み合うはずはない。
「質問に答えてない」と再質問すると、「再質問は受けません」と広報官から突き離される記者もいた。一国のリーダーたる者、たとえ記者から厳しい質問を受けても正面から誠実に答える責任があるはずだ。そういう誠実さをまったく感じない。

 というより、彼は元々言葉によって説明や説得する能力に欠けているのではないかと思
うことがある。筋の通った論理的な話し方ができず、加えて言葉の数が貧弱なので真意が分
かりにくいことがしばしばある。新型コロナ禍において、首相がいくら国民に外出自粛や営
業自粛を呼びかけてもあまり効果が上がらないのは、首相のこの貧弱な言葉によるところ
も大きいように思える。

 首相の欠落した部分はまだある。言葉から温度が伝わってこないことだ。表情も含めて無
機質な人間のように見えるので、とても謙虚に他人の意見に耳を傾けてくれる性質には思
えない。自分の考えと異なる側近や官僚を遠ざけ、次々と首をすげ替えているという話は大
袈裟な話ではないのであろう。

 新型コロナ感染症対策分科会の尾身会長からも、「国民に寄り添ったメッセージを伝える
ように」と求められたという話がある。もっともな話だが、寄り添うどころか彼はいつも下
を向いて官僚が作成したメモばかり読んでいる。自分の言葉を持っていないのである。「首
相の会見ごとに支持率が下がるような・・」という官邸スタッフのため息も理解できる。

 同僚議員が首相のことを、「言葉ではなく、行動で示すタイプ」だと評していたが間違い
である。国民から納得と共感が得られる言葉の能力と行動力を両輪にしてこそ、政治家の価
値は評価されなければならないはずだ。

 言葉を持たず、自分の言葉で話すことのできないこの国のリーダーの存在が、情けなく恥
ずかしい。何よりも、この国の民主主義の行方に不安と怖さを覚える。