【街景寸考】ボイスレコーダーのこと

 Date:2021年10月20日22時32分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 今朝、起き抜けにテレビ朝日の羽鳥慎一モーニングショーを見ていたら、兵庫県の公立小学校の男性教師が毎日のように児童に暴言を放っているというニュースを報じていた。

 番組は暴言を放っている教師の声を流していたが、いかにも気が短くて神経質そうな教師らしからぬ声であり、児童に向けた言葉だとはとても思えないものだった。指導と言うには程遠く、ただ児童の心を深く傷つける言葉だとしか思えなかった。

 教師の声の録音は、「担任の先生が毎日のようにキレる」という話を聞いた母親が仕掛けたものだった。我が子にボイスレコーダーを学校に持って行かせたのである。

 番組は更に複数の児童にも取材し、「机を強くバーンとたたいたりして脅していた」「毎日のようにキレるから学校に行くのがしんどい」などの証言を得ていた。

 学校側は当初、教師の暴言のことで相談しようとした保護者への対応を避けていたという。ところが録音した声を聞かされたことで一変し、保護者会で校長が謝罪し、地元教育委員会も「子どもに謝りたい」との反省を述べ、当該教師を口頭で注意をしている。

 この番組を観ながらわたしは、こんな教師がいるという事実に愕然としたが、校長が掌を返して謝罪している光景を想像して爽快な気分にもなった。葵の紋所を突き付けられて悪代官がひれ伏す時代劇ドラマ「水戸黄門」の場面と、ボイスレコーダーの前でひれ伏す校長が重なったからだ。因みに、問題の教師は既に退職願を提出しているようだった。

 ボイスレコーダーを上手く利用することで、自らの権力や立場を利用して暴言を吐いて人の心を傷つけ、騙し、恐怖に陥れたりする悪人に社会的制裁を加えるという事例が、近年少しずつ増えてきたように思える。

 数年前、録音された音声で失脚した女性の政治家の場合もそうだった。車内で彼女が自分の秘書に「このハゲー!」「お前、頭おかしいよ」などと口汚く罵った数々の暴言を、その秘書がボイスレコーダーに録音していた。

 最近では前菅政権のときの平井卓也デジタル大臣が、東京五輪向けのアプリ発注に関して受注企業のNECへの恫喝を示唆するような「脅しておいたほうがよい」「徹底的に干す」などの暴言をIТ総合戦略室の幹部会議で吐き、そのときの音声が外部に流出してメディア各社に騒がれていた。録音したのは誰だか分かっていない。

 暴言はパワハラと重なる部分が多々ある。侮辱罪や名誉棄損罪などの犯罪になる可能性がある。従って今後は、民間会社等においても常習的なパワハラ上司の暴言を、部下が密かに録音し、社会的な制裁を加えるという事例が増えてくるかもしれない。
 
 密かな録音は、言わば盗聴である。盗聴と言えば聞こえは良くないが、現行刑法に盗聴を犯罪とする条文はどこにもない。但し、盗聴をした内容を悪用して誰かを脅迫したり、誰かの名誉を傷つけたり、誹謗中傷したりすれば法的責任を追及される場合がある。

 ボイスレコーダーは、あくまで正義の道具であることを心しておく必要がある。