憂鬱な季節

 Date:2012年09月27日14時53分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
毎年お盆が明けると憂鬱な気分になる。職場の健康診断が近づくからだ。

癌か何かの大きな病気が発見されるのではないかというような不安からではない。胃の検査のために無理やり胃の中に詰め込まなければならないバリウムのことを思い起こすからである。バリウムさえなければ、健康診断は楽しいただのお医者さんごっこである。そんな楽しみを奪ってしまうのがバリウムによる検査である。

「以前よりも口当たりが良くなりましたよ」と看護師は言う。確かに以前より甘味が増し、水分の割合も多くなった気はする。それでも、口に含めば身体に入れて良いものかどうかは身体が本能的に判断している。そう判断しながらバリウムの受け入れを拒絶しようとするが、意志の力がそれを抑え、強引に胃の中へ詰め込んでしまおうとする。このときの辛さは、まだ飲む必要のない若い人たちには分かってもらえない。

 辛いので、途中で一息着こうとしても、「はーい、全部飲んで、全部飲んで、一気に飲んで」とレントゲン技師はそう軽く言い放ち、急かせる。「酷なことを言いやがって」と腹が立つものの、その反発心は自暴自棄に変化し、バリウムを飲み干す力となる。が、最悪の気分である。
バリウムによる拷問はこれで終わらない。というより、全部飲み干してからが本番だ。
「はい、右の腰を浮かせて」「はい、そのまま動かない」「身体を斜めにして。はい、そのまま動かない。動かないって。」「今度はクルッと身体を右回りに一回転。はい、回って、回って」・・・。

アクロバットのように真っ逆さまにされたりもする。その状態を自分で支えなくてはならない。直立の状態に戻されるとホッするが、そこに今度は、カメラが先端に付いた目のオバケみたいなものが胃の真ん中をグイグイと押しつけてくる。バリウムと一緒に飲まされた炭酸粉末のせいで「ゲプッ」となりそうになるが、察したように「ゲップは絶対しないように」と言う。このときも辛い。
宇宙飛行士もこれほど酷くな訓練はしないのではないか、と思ったりする。

健康診断が近づくとなぜ私を憂鬱するのか、これで分ってもらえたと思う。今年はこの憂鬱さついて苦々しいオチも加わった。この健康診断後に、少し体調を崩してある総合病院に行ったときのことだ。「職場でやっている健康診断では正確な検査はできませんからね」と、そこの専門医が言い切った。この憂鬱は来年もさらに続きそうだ。