【四字熟語の処世術】栄枯盛衰

 Date:2012年12月03日16時41分 
 Category:文学・語学 
 SubCategory:四字熟語の処世術 
 Area:指定なし 
 Writer:遠道重任
栄枯盛衰


先の「一陽来復」で無常について少し触れたが、栄枯盛衰とは正しく世の常ならぬことを端的に表した言葉である。世の繁栄はいつまでも続くことはなく、いずれは衰えるものであり、世は儚きものであることを教えている。先に記した平家物語の冒頭は、「娑羅雙樹(しゃらそうじゅ)の花の色、盛者必衰(じょうしゃひっすい)のことはりをあらはす。おごれる人も久しからず、只春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、偏(ひとえ)に風の前の塵に同じ。」と続く。実に清盛の生涯はこのようなものだったのだろう。

さて、ネガティブな印象を受けるこの四字熟語は私たちに何を教えているのだろうか。努力をして高きを目指しても無駄であることを、あくせくと努力などせずにほどほどの幸せで満足すべきことを告げているのだろうか。

もちろん、その言葉をどう捉えるかは人それぞれに自由なのだと思うが、私はこの言葉から「初心」の大切さを感じている。

清盛を例にとっても、若き時に彼が抱いた夢の原点は、きっと「巷で苦しむ人々が安らげる世の実現」だったのではないかと思う。民も家臣も彼のその志に光を見出し彼を支えたのだろう。彼もまたその夢を現実のものとするために権力を求め、その頂きを目指した。しかし、その過程のなかで彼は初心であった「民の安らぎ」という目的を見失い、己の権勢のみに執着し自分の手でその光を消してしまう。光を失った民の心はいつしか清盛から離れ、結果、平家は滅びさることになったのではないだろうか。

では、なぜ「栄枯盛衰」「盛者必滅」の理がいつの世にも当てはまるのだろうか。それは、人にとって「初心」を貫くことが困難なことだからだと思う。どんなに順調に事が運んでいたとしても初心を忘れれば衰退が始まり、どんなに成功の栄を得たとしても初心を忘れれば全てを失うことに繋がる。

全てが変わり移ろいゆく世の中では、変わらないものを見出すことは困難であるが、自身の初心は常に自問することで心に止めたいと願っている。「入学」「入社」「結婚」「就任」「昇進」…その時々に心
に誓った思いを忘れないでいたい。

キムタク主演のドラマ「PRICELESS」、NHK朝の連続テレビ小説「純と愛」はいずれも創業者の志を次ぐ若者の姿が描かれている。そこにあるのは自分自身の初心というよりも先代の初心を継いで行くというものだ。企業が存続するためには自分が自分の初心を忘れないことはもちろんだが、その思いを後世に伝え残すことも大切である。

とはいえ、初心は忘れることもだが、保ち続けることが更に難しい。人は自分自身に負けてしまうからだ。初心は己を律するムチでもある。だから、決して忘れてはならないのだ。