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【街景寸考】朝の通勤電車で出た話
Date:2013年01月09日10時31分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
毎朝博多駅まで一緒に通勤している友人がいる。同じ団地に住み、ソフトボールチームの仲間でもある。彼はクレジット関係の会社に勤める中堅社員だ。電車の中ではどちらかが眠たくなるまで軽い雑談をするのが毎日の常となっている。大概、彼の方から朝刊に掲載されている記事を話題に話しかけてくれるのだ。
その彼が、いつものように話しかけてこなかった日があった。疲れが溜まり眠くなっている様子でもない。電車の窓の外に目を向け黙ったままだった。外の景色を目で追っている風でもない。誰だって話す気分になれないときはあるものだと思い、彼の心のうちをそれ以上詮索することはやめ、私は肘を組んで眠りの体勢に入った。
その翌日のことである。彼は前日と同じように最初は黙り込んでいたが、しばらく経ってから突然こう言ったのだ。「九州営業所が来年3月で閉鎖されることになり、大阪の支社に行くか、会社を辞めるかの判断を迫られることになった」と。胸につかえていたものを吐き出すような言い方だった。そのとき、前日の彼の様子とこのリストラの話とは関係があったように思えた。
私は何か言葉を返さなければならなかったが、突然重すぎる話を聞いたということがありすぐに言葉が見つからなかった。大袈裟に驚くのも芝居じみて嫌だったし、平静さを装っても失礼な気がして、困惑した。
「奥さんにはそのことを話したの」
そう言うのがやっとだった。
「いや、娘がいたので話そびれてしまった」
「・・・・・。厳しいな」
「厳しいよー」
彼は厳しい現実の一端を私に諭すような口調で言った。朝日が差し込む明るい電車の中で私はこれ以上この重たい話を続けたくなかった。と、彼もそうした気持ちを察したのか、「まあ、当面生活がどうのこうのということでもないし、それに何とかなっていくモンだよ」と軽い笑顔をつくり、この話を打ち切ろうとしてくれた。
彼のことは以前から「仕事ができそうな男」だという評価をしていた。よく気が利き、気が付き、気が回るところがあるからだ。行動力もあるように思えた。ソフトボールを一緒にやっていてそう感じることがしばしばあった。家族を大事に思う言葉も何度か聞いていた。そういう彼だから、「何とかなっていく」という言葉も、ただ自分に言い聞かせているだけだとは思えない気がした。企業や社会は彼のような人間をほっておくはずがないとも思う。いずれの道を選択するにせよ強かにがんばってもらいたいと心から願う。