【街景寸考】いまだに見る悪夢

 Date:2013年02月13日09時16分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 また悪い夢を見た。大学時代のときの夢であり、もう40年近くも見てきたことになる。
東京での大学生活は母の経済力だけでは足りなかったため、バイトをしなければならなかった。家賃を払うためのバイトであり、盆や正月に実家へ帰るためのバイトだった。夢は、切羽詰まって何とかバイトを探そうとしているところから始まる。バイト先がすぐに見つからず焦っているが、一方で欠席日数が多くなった科目の方も気になっている。

 私はバイトの方を優先して街中を歩き回り、「バイト募集」の張り紙を探しては飛込むが、決まらない。仕方がないから以前働いたことのある運送屋や牛乳販売所へ行き、頼み込もうとするが、途中で道が分らなくなってしまう。そして何故かいつも暗い夜道を彷徨っている。

 バイトがどうしても決まらないときは、高田の馬場にある職業安定所の近くに行った。そこへ行けば、日雇い労務者を集めてビルの工事現場まで運ぶマイクロバスが何台も停まっているのだ。そのどれかに乗り込めば、日当を稼ぐことができる。

 車ごとに手配師が立っていて、「はい、ニーゴ、ニーゴ」(日当が2500円のこと)」と労務者を呼び込んでいる。八百屋や魚屋のオヤジが発するようなダミ声と同じ声だ。労務者たちは次々と無言でそれぞれの車に乗り込む。私も同じようにしてそのうちの1台に乗り込む。

 夢はこの辺から場面が変わる。次は必ず大学のキャンパスか近くの本屋街だ。いつも霞みかかったように見えにくい映像となって現れる。私は本屋に入り、選択している科目のテキストを買おうとしているのだ。学期末試験が近づいている。しかし、探さなければならない肝心な本がどの本かが分らない。自分の選択した科目を忘れているのだ。

 私は本屋を出て大学の学生課へと真っ直ぐ足を進めている。そして、忙しそうに立ち回る職員に学生手帳を見せながら訊くのである。
「あのぉー、ボクがどの科目を選択しているのか教えてもらいたいんですけどぉー」
見覚えのある職員が私の顔を見て立ち止まり、「また、お前か」という顔をする。

 夢は、このあたりからどんどん悪夢の度を強めていく。単位が足りずに留年が続き、何年も卒業が遅れているのだ。困り果てて大学構内をさまよい、将来が見えない自分にうろたえている。悲しむ母のことが思い出され絶望的になっている(これに関しては事実と異なる)。

 大概、この辺まできたら、身体をねじらせてもがく自分の力で目が覚める。未だにこの悪夢を見続けているせいか、なかなか大人になり切れない自分がいる。