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【街景寸考】奇声は増える
Date:2013年02月20日09時21分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
1人で歩いているときに、「キェー」とか「クェー」とかいう奇声を思わず発するようになった。ここ1,2年のことである。奇声を発した直後は、神経のバランスが直ぐに働いて治まるには治まるが、最初の1回目は止めようがない。発生源は、過去に自分が人前で掻いた恥や後悔の念であるが、それらが何の前触れもなく記憶の引き出しからいきなり飛び出してくるのだ。
奇声は、そのとき反射的に発してしまう。通りがかりの人から見れば、奇行を見る思いに違いない。脳神経の一部が劣化しているせいかも知れない。
「恥と後悔」の事例の一つをここで暴露する。
それは、ある団体から研修会の講師を頼まれ、終了後にどこかのホテルで宴席が設けられたときのことだ。
その席で主催者側の1人が私のそばに来て、酌をしながらいきなり、
「先生はブラインドですか?」
と、言ってきたのだ。
突然の不躾な質問であり、しかも意味が理解できない質問だった。私は呆気にとられていたが、彼は、酒で赤くなった顔を私に差し出すような格好で返答を待っていた。
質問の意味が分っていれば、
「私はパソコン操作が不得手でして」と素直に言っていたはずであり、大きな恥へと発展することはなかった。
だが、質問の意味が分らなかった私は、「ブラインド」という言葉を反芻しながら返答を考えた。「ブラインド」と言えば、あの日除けか目隠しのために窓に掛かっているアレしか知らない。たまたま窓を背にして座っていた私は、後ろを振り返って、まずブラインドを見るしかなかった。
ところが、私の目に入ったのはブラインドではなく、障子だった。私は焦り、返答に窮した。もはや開き直るしかなかった。このあとどういう展開になるかは彼次第だと思うしかなかった。ありがたいことに、彼は私の無知を察したのか、直ぐに別の話題に変えてくれた。
まだこのときは、気まずい思いはしたものの、大変恥ずかしい場面だったということが分っていなかった。分ったのは、「ブラインドですか?」という質問の意味が「パソコンはブラインドタッチで入力しているのですか?」ということだと後日知ったときだった。
最初から素直に「お尋ねの意味が分りませんが」と言っておけば、ここまでの恥を掻かなくて済んだのだが、そのときは講師という立場があったので、知った振りで対応しようとしたのだ。それがいけなかった。なんとも質の低いプライドが仇になった。
このときの大恥が飛び出してきて、「クェー」という奇声を発してしまった。10年くらい前の話である。最近では、思春期や少年期に掻いた恥や後悔の記憶まで飛び出す傾向にあり、奇声の回数が増えてきた。