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【街景寸考】ウナギが嫌いですみません
Date:2013年04月17日09時32分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
ウナギはどうにも苦手である。このウナギ嫌いのせいで、周りにいた人々に幾度となく申し訳ない思いをさせてきた。ある銀行の講習会に講師で呼ばれたときもそうだった。この日は朝から夕方までの講習だったので、昼食は銀行側が用意するということだった。その銀行で研修を担当するAさんが近くの料理屋に案内してくれた。
あらかじめ注文していたらしく直に料理が運ばれてきた。うな重だった。
「何も特別なものはありませんが、どうぞ召し上がって下さい」
Aさんは目の前のうな重を私に勧めた。私にとっては「特別」なものだった。
「すみません。いただきます」
ウナギが苦手だと言うわけにもいかず、そう言うしかなかった。
私は重箱の一番上にのっているウナギを、裏返しにした重箱の蓋の中に1枚ずつ入れることから始めた。
その様子をじっと見ていたAさんが見兼ねて、
「先生はウナギがダメですか」
と、甲高い声を出して尋ねてきた。
「はあ、でも大丈夫です。ご飯がおいしいですから」
収まりがつく返事になるとは思わなかったが、適当な言葉が浮かんでこなかった。
「すぐにお取り替えしましょう。何か好きなものをおっしゃって下さい。本当に。」
Aさんはそう強く勧めたが、私は固辞した。
気まずい雰囲気のままの昼食になってしまった。
私のせいで、Aさんまでがうな重をまずそうに食べているように見えた。
ウナギ嫌いということでこういう肩身の狭い思いを何度かしてきた。ところがウナギ嫌いでも恥じなくてもよいという調査結果が公表されていた。小学生を対象にした嫌いな食べ物調査のことである。それによると、1位がレバー料理で、2位がウナギだったのだ。子どもが対象の調査とはいえ、これまで肩身の狭かった思いをいっぺんに晴らすことができたような気がした。
ウナギの産卵場が、はるか太平洋のかなたにあることが最近わかったようだ。わざわざ長旅をして日本まで食べられに来るという生涯である。往路・復路が逆だったらウナギも私もよかったのにと思った。そのニホンウナギが絶滅危惧種に指定されることになった。養殖もこれからは難しくなるかも知れないという。少し複雑な気持ちではある。