【街景寸考】豚骨ラーメンのこと

 Date:2013年09月18日09時19分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 通勤のとき、博多駅から職場のある天神までの行き帰りを歩いている。片道30分ほどかかる。歩くきっかけになったのは、足首を骨折した後のリハビリを兼ねてという思いからだった。コースの中に川端商店街がある。アーケードになっているので雨が降れば雨よけになり、夏場の今は日よけになり、冬場は風よけにもなる。買い物客で賑わう夕方は、博多の風情を味わうこともできて退屈しなくていい。

 ところが、そのアーケードの中ほどに難所がある。大きな声では言えないが、強烈な豚骨スープの臭いを辺りに漂わせるラーメン屋のことだ。24時間営業であるらしく、朝からラーメンを食っている客が必ず何人かいる。その強烈な臭いは朝だけのことだが、まだ清清しさが残る空気の中でこの臭いを嗅がされると、気分が台無しになる。

 肝心なことを言うのが遅れたが、私は福岡で育ちながら豚骨スープはからきしだめである。小さいころから50円のラーメンは食べず、30円のうどんばかりを食べていた。学生時代に生活した東京は醤油味だったので、何の抵抗もなくラーメンが食べられた。同じころ、長浜ラーメンを食べたことがあるという東北出身の学友がいた。彼はしきりに豚骨味がおいしかったとほめていた。そのほめ言葉を聞くたびに、福岡出身者としての面目を失い後ろめたい気分になった。

 そう言えば、うちの息子たちも豚骨味が好きである。近くに有名になったラーメン屋があるというのに、色々な豚骨味を求めて遠くの店まで足を運んでいる。カミさんはというと、私と同じで豚骨味がだめなので味覚は遺伝子と関係ないということが推察できる。小さいころ、夜になると夜鳴きそばのチャルメラの音にひかれて、何回か食べた記憶がある。これが実においしかった。今でも鼻の奥に味の記憶が残っている。豚骨味でもなく醤油味でもない、独自の味がした。あの味は忘れられない。今でもチャルメラの音が近所に響けば駆け出して行きそうだが、望みはかなうことはなかろう。

 夜鳴きそばは余分の話である。朝の川端商店街で強烈に臭う豚骨ラーメンのことで一度愚痴が言ってみたかった。