【街景寸考】夜の急行列車

 Date:2013年11月20日10時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 仕事帰りの電車から夜景を見ていたら、急行列車の車内を想い出した。学生時代のことである。盆前や正月前の帰省のときに乗っていた。東京から小倉までの長旅だった。寝台特急や新幹線に乗れば楽に帰れたが、お金がなかった。

 帰省シーズンだったので、列車はいつも満席だった。通路もどこもすし詰め状態だったから満杯というべきか。東京駅を10時頃出発し、夕方頃に大阪駅に着いた。大阪駅までの8時間を立ちっぱなしというのが何度もあった。辛い8時間だった。

 当然、小便など我慢ができなくなって動き出す人がいる。トイレに行くには、通路にいる乗客を掻き分けては謝り、謝りながら掻き分けて行かなければならない。とても気疲れをする行動になる。

 大阪駅に着くと座ることができた。ほっとしたところで駅弁と缶ビールを必ず買った。通路に立っていたときに何度も頭の中で描いていた場面だった。近くに座る人との楽しい会話もこのころから始まる。岡山辺りまでくると、ほとんどの人たちが眠りについた。車窓は夜中となり、広島あたりでは真夜中になった。

 当然眠気が襲ってくるが、意地悪な好奇心も捨てがたくなる。座っているだけで色々な寝顔を無料で眺めることができるからだ。例えば、頭髪をリーゼント風にきめた若い男の場合、先刻までそばの若い女性たちに恰好よく笑わせていたが、眠り込んだ顔は可哀想なくらいのまぬけ面を見ることができる。

 駅弁をまことに上品な仕草で食べていた美しい年増の女性の場合も、凄かった。大口を開け、口から上下の歯がむき出しになったままの寝顔を見ることもできた。おまけに、切れそうで、なかなか切れそうもないよだれも垂らしていた。とても弁当を食べていた時の同じ女性とは思えなかった。しかし、目を覚ました時は美しい元の顔になっていた。

 目線は少し下品になる。女性が眠り込むと膝の筋肉が弛緩し、膝と膝の間が広がることになる。そんな光景が目の前にあると、変態でなくても目は勝手にそちらへ向く。そこで思ったことがある。美人系はその開脚幅が狭い。堅いと言ってもいい。ところが非美人系はそれが広い。締まりがないと言ってもいい。統計があるわけではない。単なる先入観であり、偏見でしかない。

 以上は、急行列車の中の辛く、楽しくもあった想い出である。豪華列車「ななつ星」の中では決して味わうことができない経験であることは言うまでもない。