【街景寸考】近くの中華そば屋

 Date:2014年03月19日10時30分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 一年ほど前、自宅近くの国道沿いに中華そば屋が店開きした。以前はゴルフショップが入っていた店舗だった。近くには人気の「豚骨ラーメン店」がある。休日は店の外まで長い行列ができるほど繁盛している店である。その店の近くに中華そば屋は店を構えたことになる。大丈夫なのかと一時は余計な心配をしていたが、豚骨ラーメンと中華そばでは客層が違うという読みをしてのことだろうと思い直した。

 余計な心配をしたのにはわけがあった。豚骨ラーメンを食べることができない当方にとって中華そば屋の店開きは、近くに強い味方ができたような嬉しさがあり、繁盛してもらいたかったからだ。中華そばとラーメンが専門的にどう分けられるのかは知らないが、中華そばが豚骨味ではないということだけで十分味方になった。

 初めてこの店の暖簾を潜ったのは開店から二ケ月ほど経ったころだ。それまで中華そば屋というのは、店に入ると「はーい、いらっしゃい」と威勢のいい声で迎えられ、油で勢いを得た炎の前で料理人が鉄鍋と格闘する光景をイメージしていたが、この店は違っていた。

 調理場と客席が板壁で仕切られ、厨房は隠されていた。照明はパブ風で薄暗く、店舗レイアウトは「吉野家」風、BGMは古典音楽だった。どう考えても店造りのコンセプトはちぐはぐに思えた。この先この店に通い続けたとしても馴染めそうな気はしなかった。中華そばは醤油ラーメン風だったので美味しく食べたが、具材や食器、それにサービスも、これといって特徴づけるものは特になかった。

 その後、客の入りは芳しくない状態が続いていた。店の駐車場を二、三日観察すれば誰の目にも明らかだった。いくらなんでも経営的に相当苦戦しているのではないのかと思っていた矢先、店の扉に告知する紙が貼られてあった。「店舗のリニューアル中です。○○頃までには開店します」と書いてあった。閉店の知らせかと思ったらそうではなかった。何とか踏ん張ろうとしているのだ。リニューアル後の店舗に期待するしかない。

 新装開店したら今度は真っ先に行くつもりである。