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【街景寸考】炭鉱の共同便所
Date:2014年04月30日09時49分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
炭鉱長屋には風呂や便所がなかった。風呂は炭鉱の共同浴場へ行き、便所は共同便所だった。今回はその共同便所の話である。便所は汲み取り式だったので、4、5歳くらいまでは一人で行かせてもらえなかった。便槽に落ちる危険があったからだ。それで家の前に古新聞を敷いてもらい、その上で用を足すことが多かった。近所の小さな子どもたちもそうしていたので特別なことではなかった。
用が終わると尻を上げたまま「ばあちゃん、でたあ」と叫び、祖母が来るのを待った。祖母は適当な大きさに切った古新聞を手で揉み、拭きやすくしてから私の尻を拭いた。何度も同じところを強く拭くのでいつも尻が痛くてヒリヒリした。
共同便所は、大便用が3室あり、小便用はコンクリートの壁に向かって放尿する簡単なもので、4人ほど並ぶことができた。ときどき子どもたちは放尿台に並び、小便の高さを競ったりした。
その日も小便の飛ばし合いをしようとして、共同便所にたむろしているときだった。絣のモンペを穿いた40代から50代くらいの行商のおばさんが、共同便所に勢いよく入ってきた。もうこらえきれないという様子だった。
私たちはそのおばさんは当然大便用に入るものだと思っていた。そしたら、「ほら、どいて」と大きな声で叫んだと思ったら、私たちがいる放尿台に上がってきたのだ。その勢いに押され、私たちは次々と飛び退いた。
放尿台に上がったおばさんはモンペを引き下げたかと思ったら、くるりと半回転して私たちの方に顔と身体を向けたのだった。それまで女の子が路地で小便をするところを見たことがあったが、いつも顔と放尿の方向は同じだった。ところが、このおばさんの場合は顔と放尿の方向が逆になっていた。しかも、少し前屈みになっているとはいえ、女の人が立ったまま放尿する恰好を見たのも初めてだった。
その後、農村地帯に行くと農家のおばさんたちが、尻は用水路に向け顔は農道側に向けて立小便をする光景をいくらでも見ることができた。ただ、少し前屈みになっているとはいえ、顔とは逆向きに放尿をしてなぜモンペを濡らさずに小便ができるのか、その辺の原理が未だにわからないでいる。とりとめのない思い出話になった。