【四字熟語の処世術】諸行無常

 Date:2014年05月21日09時56分 
 Category:文学・語学 
 SubCategory:四字熟語の処世術 
 Area:指定なし 
 Writer:遠道重任
諸行無常(しょぎょうむじょう)



 祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹(さらそうじゅ)の花の色 盛者必衰(せいじゃひっすい)の理(ことわり)をあらわす おごれる人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし たけき者もついには滅びぬ 偏(ひとへ)に風の前の塵に同じ

 平家の栄華と没落を描いた軍記物「平家物語」の冒頭にある有名な一文だ。盲人の琵琶法師によって語り継がれたという平家物語には、まさに諸行無常の響きがある。高校の古典の授業で習った時にはこれといった感動もなく、何のことだか分からずにいたが、年を重ねるごとに少年老い易く学成り難き事に気づき、諸行の無常なることを痛感する今日この頃である。

 2012年に放送されたNHK大河ドラマ「平清盛」は、これまでの大河ドラマでは最も低い視聴率だったとかで、残念な結果だったらしいが、天皇と貴族、そして武士との関係が今ひとつわかっていなかった私には、なかなか面白く当時の時代背景を理解する上で役立つ番組だった。

 諸行無常の「諸行」とは、この世の一切の事物・現象をいう。「無常」とは、この世の中の一切のものは常に移り変わり、永遠不変のものはないということを意味している。

 古代、中国で生まれた「易」の理論では変化著しい事象を単純化して「陰」と「陽」とし、万物はすべてこの陰陽の変化によって生れると教えている。日と月、男と女、明と暗、始と終、+と−、生と死…等々。

 確かに満月は一瞬でしかなく、次の瞬間には15日後の朔日に向かって変化を始める。生は一瞬一瞬が死への行進であるとも言える。そう考えれば、この世の中に常なるものなど何もないことがわかる。あらゆる事象は常に変化して已まないのだと…。

 この諸行無常という言葉にはネガティブなイメージが付きまとうのは私だけだろうか。不変、永遠なるものを欲する本性がそうさせるのかもしれないが、考えようによってはポジティブに捉えることもできる気がする。日が沈み暗闇が訪れてもやがて日は必ず登る。どんなに辛いことが起ころうとも、無常の風はそれを遠くへと運び去り、幸せを運んでくれる。無常であるがゆえに極まれば反転する理は何事にも当てはまり、幸・不幸、苦・楽もまた同様なのである。

 老子様は、「飄風(ひょうふう)は朝(ちょう)を終(お)えず、驟雨(しゅうう)は日(ひ)を終(お)えず」と言われた。つむじ風は朝のうちにやんでしまうし、にわか雨は一日中降り続いたりしないという教えである。

 平家物語の作者が祇園精舎の鐘の音に諸行無常を感じたのであれば、私には、幸せだと思える時ほど身を慎み、不幸だと思える時ほど、光がすぐ近くにあることを信じて、諦めずに前へ前へと進む勇気を持つことの大切さを教える響きに聞こえるような気がする。