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【街景寸考】まさか下戸とは
Date:2014年07月30日10時33分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
小さかった頃、祝いの席で酒を飲んでいるおやじ連中から、「さあ、お前も一杯ぐらい飲め」などと言われて盃に注がれることがあった。一杯くらいのことなので、飲みっぷりを意識して一気に飲み干していた。おやじ連中はそんな私を見て、「ほお、こん子は酒豪になるかもしれんばい」と言って大げさに驚いて見せた。
酒豪が何のことなのか当初は分からなかったが、褒められているらしいことが嬉しかった。そうやって何回か褒められているうちに、自分は本当に酒豪になれるかもしれないと思ったこともあった。血統的にみても素質がありそうに思えた。母方の祖父は酒で身を持ち崩したし、2歳の時に別れた父も酒が原因だったということを母から聞いていた。「それはもう毎日のように飲んだくれ、1週間に3日も働けば立派なもんやった」というのが元妻の元夫に対する評価だった。母方の叔父も焼酎を飲んだし、いとこたちもビール党だが「グビグビ」と果てしなく飲むという印象がある。
後年、酒豪のことを、大量に酒は飲んでも酔態を少しもさらさない者ということを知ったとき、自分の血統はいずれもただの飲んだくれだったということを理解した。それからというものは、飲んだくれにならないよう用心するようになった。例えば、焼酎のお湯割りを飲むときは、3杯目あたりからはお湯にレモンを浮かべただけで飲んだ。この方法だと、いかにも焼酎を飲んでいるように周りをごまかせた。盃で酒を酌み交わすときも、早々に切り替えてこの偽お湯割りを飲んで酔っぱらった振りをした。
飲み事があるたびに自制を続けてきたせいなのか、元々酒の血統とは異なる体質だったのか、どちらか分からないが年とともに段々飲む量が減り、ついには何年飲まなくても平気でいられるようになっていた。母は自分の息子が元夫のようにならなかったことに安堵し、カミさんは酒にほとんど金がかからない夫を喜んできた。
結局は酒とあまり縁のない人生になったが、後悔がないわけではない。まだ息子たちが小さかったころ、大人になったら一緒に飲み、喋り合うことを楽しみにしていたことがあった。その大事な機会を奪ってきたような負い目がある。息子たちと喋ることはあるが、物足りなさを感じているに違いない。
これから修行してみるか。それにしても、まさか自分が下戸のようになろうとは・・。