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【街景寸考】ひとりでパクつく女性
Date:2014年10月31日11時03分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
先日、一人の若い女性が電車の中で弁当を食べる光景を見た。彼女の近くには数人の同乗者がいたが、人の目を全く気にする風もなくモグモグと口を動かした。自分の家で普段どおりの食事をしているような表情をしていた。長距離列車ならいざ知らず、近距離の鈍行列車の中でのことだったので驚いた。
驚きつつも弁当の中身も気になった。覗こうと思えば覗ける位置に座っていたからだ。だが、実際覗くためには顔を真横に向けなければならなかったので、憚られた。その気になれば雑作もないことだが、勇気が要った。真横を向けば彼女からあらぬ懐疑をもたれることを覚悟しなければならない。まだ弁当を覗くと決めたわけではないのに、心身が窮屈になった。
結局、彼女の一瞬の隙を突いていたかどうかは分からないが、私は弁当を覗き、すぐさま正面に向き直った。白米と卵焼きが目に入った。卵焼きの横に色の異なるおかずがあったが、それが何だったのか確認できなかった。
話が逸れた。ここで問題にしたかったのは、若い女性が一人電車の中で弁当をパクつく行為である。数人で食べているのなら見る側もそんなに抵抗感はなく、見られる側も複数なので心強くなり恥ずかしさを感じることはない。
しかし、一人の場合だと「行儀が悪い」と見られてしまう。ましてや若い女性が一人のときである。見られる女性も恥ずかしく思うのが普通であろう。余程無神経な女性でなければできない行為だ。嘆かわしい行為である。
と、そう思ったが、直ぐに思い直すことにした。若い女性が一人電車の中で弁当をパクつく行為は、すでに珍しい光景ではないのかもしれないのだ。当人も「恥ずかしい」行為だとは思ってない。当方もそういう感覚で見なければならなくなったのだ。これまでの古い物差しを捨て、新しい物差しに取り換えなければならなくなったのだ。そうしないと段々世間から相手にされないようになる。
下車する際に再度彼女の弁当を真上から眺めた。ひょっとして弁当を見られたことで、少しは恥ずかしがる表情を期待したが、微塵もなかった。弁当はすでに空の状態に近かった。卵焼きの横にあったおかずは分からず仕舞いだった。