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【街景寸考】便秘秘話
Date:2014年11月04日16時42分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
大学時代、朝は即席ラーメン、昼は学食で100円定食、夜はまた即席ラーメンという食生活を続けることが多かった。後年、同僚や知人たちにこの話をすると「よくラーメンばかり食べられたなあ」と呆れた顔をされたが、当の本人に悲壮感はなかった。若かったということもあるが、腹が減れば食べるものは何でも美味しかった。即席ラーメンを食べ続けても飽きるということがなかった。具は入れなかった。面倒だったし、余計にお金が要るということもあった。モヤシくらいはと思ったこともあったが、男がスーパーの野菜売り場に行くということに強い抵抗感があった。
こうした食生活が災いして便秘になった。栄養不足が原因で便秘になるということを肛門科医院で知った。便秘になったら切れ痔にもなった。便秘になると肛門近くの便が硬くなり、便を強くいきんで出そうとすると肛門に亀裂が生じる場合がある。これが切れ痔だ。その痛さは拷問並みだ。直腸辺りまでペンチのようなもので強く挟まれ、挟まれたまま右に左にねじられるという痛さである。
生きていくためには飯を食わなければならない。食べれば先がつかえているので更に便が腹の中に溜まってしまう。その苦痛は当事者になってみないと分かってはもらえない。便所で1時間以上も戦ったあげく、小さな屁だけがポソッと出ただけのときは絶望的な心境になった。住んでいたアパートは和式便所だったので、肛門の痛さに足の痛さも加わった。孤立無援というのはこういうことだと思った。
糞だらけになる腹の中を想像したら怖くなり、肛門科医院へ行く覚悟をした。行けば診察台の上で股を開かされ、医師だけでなく看護師からも覗かれる場面を想像した。果たして想像どおりの場面が現実のものとなった。死にたい気分だった。
意外にも診察は簡単なものだった。肛門を少し覗かれただけである。「薬を出しますので飲んで下さい。それで出なければまた来なさい」と医者は言った。錠剤を1、2粒のんだくらいで頑固な便が出るものかと疑ったが、翌朝には便が簡単に出た。自然に笑みがこぼれ、こぼれた笑みが止まらなかった。自分の便が愛おしく見えた。その便を見ながら現代医学に対して、しみじみと敬意を払った。