毎日のようにどこかのテレビ局でグルメ番組をやっている。旅番組の中でもホテルで豪華な食事をする場面が多くある。こうした映像を見ながら、豊かになった日本を改めて思うこともあれば、飽食にまみれているようで嫌悪することもある。

　自分のことで言えば、味にこだわる欲求が他人よりも低い。美味しいと言われるような料理でも食べてみたいとはあまり思わない。何を食べても美味しいと思うので、特別な料理や珍しい料理などに関心が向くことはあまりない。貧しい家で育ったことも一因にある。

　何を食べても美味しいから早飯喰いになった。飯と糞は明らかに他人より早い方だ。早く飯が食えるように努力してきたわけではないが、そうなった。カミさんからはいつも「ゆっくり食べて」と叱られているが、ゆっくり食べるという食べ方が分からない。ほかのことにもこれだけ集中できたらと思うくらいに集中できる。粗食でもある程度満腹になりさえすれば満足である。味わって食べることを知らずに生きてきたことになる。

　一般に女性よりも男性の方が飯を食うのが早い。女性の食事が遅いのは、「ながら」をして食べることができるからだ。あるテレビ番組で見たことがあるが、女性は歯を磨くときでも無意識に軽く身体を動かすことができ、バレーの仕草もできる。同じ番組の中で男性たちは、歯を磨くこと以外に何かの動きをするという光景は全く見られなかった。食事のことで言えば、食べながら話をしたり、テレビを見たり、考え事したりすることができるのは女性の方だと言える。女性の脳の構造は、並行作業ができるようになっているということだ。

　食事のときにカミさんから、「ゆっくり食べて」と言われるのは性別の違いからくる言葉なのかもしれない。男性が女性より早飯であるという理屈は理解できたが、なぜ自分は他の男どもより飯を食うのが早くなったのかという疑問については分からないままである。

　そう言えば、母の場合は女なのに食べるのが早かった。病院で患者の付添婦をしていたので悠長に食べる時間がなかったという影響もあったかもしれない。特にお茶漬けのときは凄味があった。箸が茶碗の底を機関銃のようなリズムで叩き、その勢いで口の中に掻き込むという感じだった。そのお茶漬けがとても美味しく見えた。自分の早飯はこの母からの影響を否定することはできない。