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【街景寸考】不安の中の夢
Date:2015年02月25日08時10分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
また、お金がなくて途方に暮れている夢を見た。生活の不安を抱きながら暗い街中をさまよっている夢だ。40数年も前のことなのに年に1、2回は同じ夢をまだ見る。さまよっているのは学生時代に過ごした東京の街々だ。
お金を貸してくれそうな友人を何人か浮かべながらとぼとぼと歩いている。頼めば貸してくれそうな友人はいるにはいるが、特定するという段になると気持ちが後退した。どの友人も苦学生であることを知っているからだ。学費だけでなく生活費も自分で稼いで大学に通っている者ばかりだった。特定しにくい理由がほかにもあった。あまり近し過ぎる友人だと妙に借りにくく、疎遠にある友人だと尚更借りにくいように思われた。その中間ぐらいが適当だと考えたが、その辺の値にいる友人を特定するという器用なことはできなかった。
結局お金を借りることを諦め、以前働いたことのあるバイト先を訪ねてみることにする。国分寺の新聞販売所、高田馬場の日雇い仕事、神田の運送屋、阿佐ヶ谷の牛乳屋が頭に浮かんでくる。直ぐにお金を手にできるのは日雇い仕事だが、人夫用のマイクロバスに乗り込むためには朝早く起きなければならず、重労働になるので続けて3,4日くらいしか働けそうになかった。新聞配達も牛乳配達も飛び込みで雇ってもらうのは難しく、たとえ雇ってもらえても給与を貰うまでには1ケ月ほどかかるため、それまで生活をつなぐことはできない。
残るは運送屋だ。愛嬌のよい女将さんが運送管理をしている小さな会社だった。荷主は出版会社だったので倉庫から原紙を積み、印刷屋に運ぶという仕事が多かった。給与が2週間ごとに支給されていたので今の自分にはここしかないように思えた。
腹を決めてその運送屋を訪ねることにする。少し元気を取り戻して歩こうとするが、なかなかそこに辿り着くことができないでいる。知っている東京の街々であるはずなのに、見たこともない街並みが次々と現れるのだ。
暗い街をさまよってばかりの夢である。さまよいながら大学の単位不足のこと、滞納している家賃のこと、帰省するための旅費のこと、将来不安のことなどが頭の中で渦巻いている。途方に暮れたところでいつも目が覚める。目が覚めてもこの暗い気分はしばらく続き、まもなく暗い気分と入れ替わるようにして感謝の気持ちがこみ上げてくる。家族への感謝の気持ちである。