【街景寸考】花見の思い出

 Date:2015年04月01日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 桜の花を見て最初に美しいと思ったのは5歳のころだったろうか。近所の子どもたちと小学校の廃校跡地に遊びに行ったときのことだ。朽ちた校舎の柱や壁の一部がまだ取り残されている辺りに、桜の木々は立ち並んでいた。桜の木は低い位置から幹が分かれて横に張り出している場合が多く、小さな子どもでも簡単に登ったり、ぶら下がったりして遊ぶことができる。その幹によじ登り、更に上に登ろうとして顔を真上にしたとき、溢れるほど咲き乱れた桜の花が目に映ったのだ。

 この翌年の花見のことも記憶している。祖母に連れられて行った田川市後藤寺にある丸山公園での花見である。このときは花よりも祖母が作ってきたおにぎりの方にばかり気になっていた。祖母は社殿と鳥居に通じる石段の途中で新聞紙を敷き、孫の私と並んで腰を下ろした。祖母は直ぐにおにぎりを包んできた新聞紙を開き、きな粉をまぶしたおにぎりを私に差し出した。海苔で巻いたおにぎりを食べたかったが、全部黄色で一色のおにぎりばかりで列がつくられていた。そのほかにはお茶があるだけで、おかずらしいものは見当たらなかった。

 すぐ近くで車座になった家族連れが賑やかに重箱を囲んでいた。重箱には、巻き寿司やいなり寿司が並び、別の重箱には紅白の蒲鉾、卵焼き、鶏のから揚げ、それにウィンナーも詰め込まれていた。桜の花に負けないくらい彩りのある重箱に見え、眩くもあり、羨ましくもあった。そうした気持ちを祖母に気付かれまいとしていた記憶もある。

 初めて夜桜を見たのは皇居の外濠公園だ。学生時代にバイト先の会社が催してくれた夜桜見物だった。灯りに照らされた桜の花は実に幻想的に映り、昼間よりは咲き誇っているように見えた。

 外濠に沿って遊歩道があり、広くはないその道いっぱいに会社帰りの人たちがひしめき合い、酒宴を張っていた。酔っぱらった人たちがはしゃいでいるその光景が、故郷のオヤジ連中と全く同じだったことも嬉しくさせた。

 今年も花見の季節がやってきた。昼食を兼ねてカミさんと行ってこようと思う。海苔おにぎりと蒲鉾、卵焼き、それにウィンナーがあれば十分だ。桜の花があれば公園でなくても構わない。できれば、また昔のように桜の木の上に登ってみたい。