【街景寸考】頑な表情に力もらう

 Date:2015年04月15日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 自宅から歩いて10分ほどのところに多目的グランドがある。このグランドの外周を週に3、4日はジョギングをするようにしている。最初は主にウォーキングをしていたが、途中からジョギングに変えることになった。

 変えるきっかけとなったのは、このグランドでジョギングを続けている知人との出会いだ。彼は外周を毎日のように16周走っていた。外周が750mなので12kmは走っていることになる。その彼から走り方の手ほどきを受けていたら、いつの間にかウォーキングからジョギングに切り替わっていた。

 当初は息が上がり、外周を三周続けて走ることができなかった。それでも地道に一周ずつ伸ばして行き、最近は10周続けて走れるまでになった。息苦しく走らないようにしているので50分ほどかかる。楽しいジョギングでなければ長続きしないので、このペースで今後も走り続けようと思っている。

 夕方になるとウォーキングをする人も増え、外周を左回りに歩く人たちで賑やかになる。高齢者が多いが、ときどき野球やサッカークラブの少年たちも混じって走っているのを見る。早足で歩く人もいれば、散歩をするように歩いている人もいる。息せき切って走る人もいれば、小さな子どもから抜かれるような速さで走る者もいる。

 その中に一人、杖をつきながらほんの僅かずつしか前に進めない高齢の婦人がいた。何かの病で身体が不自由になり、リハビリをしているように見えた。交互に足を出すことができず、両足が一旦揃ってからでないと次の一歩目が踏み出せないという歩き方だ。

 その頼りない歩き方とは逆に、その婦人は何かを射ぬくような鋭い眼差しをしながら歩を進めていた。へこたれないぞという頑な意志が伝わってくるようだった。女性らしい品と聡明さを合わせ持った顔立ちが、その意志の強さを増しているように思えた。

 いつのころからかその婦人が姿を見せなくなった。何かの事情があったのだろうと心配した。今でもグランドにいるときは、ふとその婦人を思い出すことがある。そのたびに、あの射抜くような眼差しを忘れてはいけないような気持ちになる。自分に欠けたところを叱咤してくれる眼差しのように思えていたからかもしれない。