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【街景寸考】覆された宝石のような朝
Date:2015年05月13日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
5歳、6歳のころだったか。朝、目が覚めたら取り残されたように自分だけが蒲団の中にいた。おそらく風邪を引いたか何かで、家人に寝かされたままにされていたのだと思う。そう察したが、体調が悪いというような気分はどこもなかった。むしろ、ぐっすり眠れたときの爽快感さえあった。
枕元のすぐ後ろにある障子戸に目をやったら、障子越しの陽ざしは柔らかい明かりとなって部屋の半分ほどを照らしていた。その明かりを眩しく顔で受けながら、太陽がすでに高いところまで昇っているのを感じることができた。
外から聞こえてくる生活音からも、そのことを察することができた。笑顔で朝のあいさつを交わす声、立ち話をしているお母さんたちの甲高い声、オート三輪やバイクの埃っぽいエンジンの音、自転車のブレーキ音、幼児の泣き声等々。
これらの生活音から想い起される朝の情景は、神々しく輝いているように思えた。その輝きが地上を踊るように乱反射し、人々に希望を抱かせているように思わせた。蒲団の中にしばらく横たわったまま、これらの音にじっと耳を澄ませていることが心地良かった。
このときに想像した情景が突如として高校時代に蘇った。現代国語の教諭が授業中に短い詩を大きな声で読み上げ、もう一回読み返したときだ。その詩で描かれた情景とあの朝の情景がぴったり重なったのだ。重なった衝撃で、仕舞っていた記憶が勝手に飛び出してきたような感じだった。
(覆された宝石)のような朝
何人か戸口にて誰かとささやく
それは神の生誕の日。
教科書を覗き込みながら、改めて詩の全文を目で読み返してみた。「(覆された宝石)のような朝」というところの描写は、まさにあの日の朝の輝きと同じもののように思え、嬉しかった。再び浮かんできたあの朝の情景が懐かしく、愛おしく思われた。西脇順三郎という作家の作品だった。