【街景寸考】撰果機の前でパート労働

 Date:2015年06月10日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 ハローワークで紹介してもらった職場で週三日働くことになった。いわゆるパート労働である。主にミニトマトのハウス栽培を行う農業生産法人だった。働くのは1年ぶりである。今回はそこでの働きぶりをレポートする。

 私の持ち場は主にミニトマトの撰果である。収穫されたミニトマトを回収して撰果機に移し、大小5種類に仕分けしたものを出荷作業の方へ回すというものだ。これだけの説明だったらミニトマトを撰果機に移すだけのようだが、実際はなかなか大変である。

 撰果機の上で流れるミニトマトをじっと見続けながら、商品にできない小粒なものや、割れやカビが付いているものを取り除いていかなければならない。加えて、結露で濡れたミニトマトが仕分け口に詰まることがあったり、仕分け口から飛び跳ねて床に転がったりすることもあるので、そうならないよう注意していなければならない。

 慣れないうちは、これらの作業のどれかをしばしば見落とした。失敗をしたときは50歳代のベテラン社員から必ず注意された。彼は自分の仕事で忙しそうに立ち回りながらも、私の失敗を見逃さずにすかさず注意してきた。小うるさかったが、指摘が的確なので素直に聞くしかなかった。

 当然ながら彼に対する苦手意識が生じてきた。苦手意識が強くなればなるほど失敗が増えるような気がした。普段はあまり失敗しないところまで彼だけには不思議と見つかり注意された。例えば、撰果機から跳ねて床に転がったミニトマトを偶然踏み潰したことがあった。こんなことは作為的にできることではない。できるとしたらプロのサッカー選手ぐらいである。しかし、このときも「踏んだらだめ」と言われてしまった。その偶然性を理解してもらえなかったことが悔しかった。

 撰果機の影に隠れて完熟した真っ赤なミニトマトを口にほおばったときもそうだった。誰にも見られるはずもない現場を、彼だけには見られた。彼は無言でいたが、目は明らかに私を非難し、蔑んでいた。心の中で天を仰ぐしかなかった。彼とは仕事の関係を超えた何かの悪縁で結ばれているように思え、悔やんだ。

 最近は撰果に慣れてきたせいか、彼の小言が減ってきた。3カ月もすれば自分の意識から彼の存在感さえ希薄なものになっているに違いない。何とかがんばっていけそうな気分だ。