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【街景寸考】物忘れの功と罪
Date:2015年06月24日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
大きな声では言えないが、人の話を真面目に聞こうとする性格ではない。わざと聞き流すという確信犯ではなく、元来そういう性格のようである。世間話や内緒話なんかの類になるとほとんどいい加減にしか聞かず、耳に入ってきた分も直ぐに忘れてしまう。特に世間話はどうでもよいものばかりなので、別れ際にお互い好感を持っているということが伝われば、それ以上のことは必要ないとさえ思っている。
こうした性格は、伝達事や仕事の話のときには差し障りがあるが、そうでない場合はそれなりの評価を得てきた。口が堅いという評価である。実際には口が堅いというわけではないが、聞いたことを忘れてしまうので良い方に勘違いされてきた。お蔭で「言った、言わぬ」でのトラブルに縁がなかった。反面、「えっ、この間言ったばかりなのに、聞いてなかったの」というお叱りを受けたり、呆れられたりしたことは数えきれない。
いい加減な性格に加えて「おっちょこちょい」という性格も兼ね備えている。「おっちょこちょい」とは注意力散漫で、落ち着きのない性格のことだ。子供の時分から宿題を忘れたり、約束を忘れたりしてきたのは、こっちの性格のせいだ。誰にも負けないくらい物忘れをするような人間になってしまったのは、「いい加減」と「おっちょこちょい」の二刀流になったからに違いない。
最近は新たな物忘れの要因が加わってきた。高齢による記憶力の劣化だ。思い出そうとしても思い出すことができなかったり、何をしようとしていたのかを忘れたりすることが多くなった。少し前までは、その場で頭を数回ひねっていると、何とか思い出すことができていたが、それができなくなってきた。
物忘れをすることで自分が困るのはまだよいが、そのことで他人に迷惑をかけるようになってくれば問題である。社会人としての適格性が疑われ、相手にされなくなってしまう。そうは言うものの、明らかに高齢からくる物忘れが多くなってきた。
忘れたことを覚えているうちはまだいい。そのうち忘れたこと自体を忘れたままになってしまうのかもしれない。この先の自分を自分がどこまで見極めていくことができるのか、ぬかりなく観察して行きたい。