【街景寸考】ウルグワイの大統領

 Date:2015年07月22日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 電気製品を買っても10年くらい経つと大抵どこかが不具合が起こる。車も走行距離が10万kmを超えるころになると、そうなる。多くの国民はこれら製品の短い寿命に慣らされているのか、大した不満を言うこともなく買い替えている。

 電気製品ではないが我が家も最近ガス給湯器を買い替えた。やはり10年くらい使ってきたものだ。風呂場でシャワーを使っていたら、お湯が急に水に変わり、水に変わったかと思うとまたお湯になり、仕舞いには水のままになった。数日間こうした状態が続いたのでガス会社に来てもらうことにした。

 ガス会社の見立ては「ほぼ寿命です」だった。「修理はできるが、修理費を考えると買い替えた方がいいですよ」というアドバイスが付け加えられた。以前、テレビが故障したときにも電話口に出た家電量販店の社員から「古い型なので部品が手に入りにくいので新しいのを買ったらどうですか」と言われたことがあった。

 日本の技術力は世界一だとは思ってきたが、その一方で寿命10年程度の製品しか造れない技術力なのかという疑う気持ちもあった。ときには製造から10年くらいで故障するように造る技術力に感心すべきではないのかと思ったこともあった。実際、この寿命に合わせるかのように新しい機能やデザインを施した新製品が開発されている。

 「(人類は)10万時間持続する電球を作れるのに、1000時間しか続かない電球しか売ってはいけない社会にいるのです」「より多くを売るためには使い捨ての社会を続けていかなければならないのです。(この)悪循環の中にいることにお気づきでしょうか」。

 これは去る5月に開催されたブラジルのリオ会議(環境の未来を決める会議)でウルグワイのムヒカ大統領が発したスピーチの一部だ。同大統領はこうも言った。「貧乏な人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」と。更に「(経済の)発展は幸福を阻害するものであってはいけない」という言葉で締めくくった。

 同大統領は、給与の90%を慈善事業に寄付し、自らは毎月13万円で郊外の質素な家に暮らしているそうだ。本物の政治家である。日本にこうした政治家を期待するのはもはや無理なのか。このスピーチを報道しなかった日本のテレビ局にも大いに失望した。