【街景寸考】紀行番組に唸る

 Date:2015年08月26日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 テレビでオランダの都市ライデンが紹介されていた。運河に囲まれ、チュウリップ畑が艶やかに広がり、中世に造られた建物群のある街だ。オランダ最古の大学(ライデン大学)が創られ、17世紀の代表画家レンブラントが生まれた街でもある。

 画面はNHK・BSで毎週放映している「世界ふれあい街歩き」という紀行番組だ。このときはたまたまライデンの街を歩いていた。毎回世界のどこかの街を気ままに歩き、短い会話で地元の人々と触れ合って行くというのが、この番組の特徴である。ときどきガイドブックを取り出して名所旧跡を訪ねたりもする。視聴者にその街を実際に歩いているような気分にさせてくれるので、番組の途中から見ても楽しむことができる。

 街で声をかけた人々との短い会話から、その街の文化や歴史、習慣を窺い知ることができるという妙味もある。更に、その街の風土に育まれた人情や情緒までが伝わってくる。「旅人」が興味を引いた家の前で立ち止まっていると、そこの家人が「どうぞ家の中を見て行って下さい」「寄っていくかい」とか言って、気さくに家の中を案内してくれる場面に驚かされる。見晴らしの良い窓のところまで「旅人」を導き、「この窓から見える景色がとても気に入っているんですよ」と話すときの家人は心の窓まで開け放してくれているようで、幸せな気分になる。

 地元に住む人々からは「この街は親切で皆良い人たちばかりよ」「この街がとても気に入っているの」という言葉をあちこちで聞くことができる。住んできた街を心から愛し、自慢できる彼らが実に羨ましく思う。別れ際の「今日一日、この街を楽しんでね」「良い一日が送れることを祈っているわ」という言葉も異国情緒があっていい。

 公園のベンチで佇む老婦人に「チューリップが美しいですね」と声をかけると、「ええ、人生に色が戻ったような季節になったわ」という言葉が返ってきた。長年店を営んできたという女主人からは、「お客さんの楽しいときも悲しいときも分かりますよ」という言葉を聞くことができた。いずれも名言であり、優しさに溢れ、味わいのある言葉だ。

 番組のラストシーンがまたいい。テーマ曲と共にその街に沈む夕日を映し出しながら終了する。毎回、爽やかで切ない気分にさせられるシーンである。